家の前で、段ボールを運んでいた鳩が首を傾げている。何か注文していた駄菓子がもう届いたみたいだ。
「高校の応援団の応援歌。鵺が透真君に誘われて応援団に入るみたいなの。ちらっと見に行ったら私も勧誘されたから歌わされて逃げてきた」
「そうなんすか。お嬢なら応援団とか超似合いますよ」
「すいません、こことここにサインをお願いします」
「はいはーいっと、うわあわ、失礼しました。名前間違えたー」
 ボールペンでぐちゃっと消した後、鳩は字を書き直すと、段ボールを逃げうように持って入った。話の途中だったにしても、自分の名前を間違えるのかな?そう思ってサインした領収書を好奇心から覗いてしまった。
 『烏丸』その文字をぐちゃぐちゃに消して横に、うちの家の吉良という名字を書いていた。
「……」
 似合わない。鳩は、鳩でいいんだ。何も――私は見ていない。だって見えない気持ちの方が大切だから。
「ねえ、そんな段ボール三つも何を頼んだの?」
「ああ、お菓子じゃないっす。ガチャガチャの中身とか、今人気のアニメのカードくじとか。こどもを呼び寄せるにはこんな奴も良いっすよ。それに……在庫の駄菓子、ほとんど賞味期限まだありました。一年以上大丈夫って、本当に子供に食べさせていいんすかね」
「何よ、あんた、育ちが良かったから駄菓子食べたことが無いみたいな口ぶりね。私がおごってあげるから二百円で好きなモノいっぱい食べちゃいなよ」
「なるほど! 自分で食べないで憶測だけはだめっすよね。じゃあ、このペペロンチーノときなこ棒とビック勝つと、うぎゃー二百円越えてるっす」
「しょうがないな。昨日のおそば代のお礼に三百円にしてあげる」
 小さな籠を渡すと、鳩は嬉しそうに駄菓子を詰めだした。結局、500円オーバーしてしまい、駄菓子屋でこんなに買っていく人は珍しくてなんだか新鮮だった。
「おばさんに駄菓子屋の売り上げ帳見せて貰ったら、メモ帳に使われてて分析が難しい月とかあったっすが、雀の涙程度の売り上げばっかだったっす」
「そうだよねえ。でもうちはお父さんが働いてるから別に困らないよ」
「駄目っす。せっかく観光客も来るのだからもっと豆田町っぽい駄菓子とか置いて、子供がいっぱいいれば目も引くだろうし。俺が自分のバイト代ぐらいの売り上げは作れるようにプロデュースするっす」