「うわ、自分の忌みは自分で見えないとか迷惑」
 だけど、学校までの道のりの中、鵺も忌みをひらりと交わしたり、避けたり時には、諌山のお爺ちゃんがくれた玩具の銃で撃ち抜いたりと一緒に戦ってくれた。
 秘め百合が私の手の中に現れた詳しい状況は言っていないけれど、私が忌みを斬りながら進むその姿を、『美しい』と呟いてくれた。
 それは、見えているからこそ言える言葉だと少しだけ切なくなった。忌みを斬り、交わし、消滅させながら遅刻は免れて登校した。その時に、花の出荷に小さな軽自動車に乗った重爺ちゃんを見かけて――ちょっとだけ心が弾んだ。無理はしないでほしいけど。

「では、来週の遠足で竜体山公園に行くから。なんかクラスの親睦できるゲームを一つ考えろ。クラス委員前に出て、話し合ってくれ」
 私と鵺が遅刻しなかったことに梶原先生が上機嫌になったのは言うまでもないけれど、遠足決めで事件は起こった。
「えー、ってかどうせ渡辺がいるんだから雨だろ。雨の時は先生何するんすか」
「この高校って遠足とかやることがいちいち子供っぽいよね」
 二人が馬鹿にしたような発言をするので、一発殴ろうと思ったら、渡辺君が黒板を叩いた。
「俺は野球部に今日から復活することになったので、クラス委員は吉良さんに、副委員は転校したての鵺君に早く学校に慣れるようにと、お願いしました」
「は? お前、透真先輩が甲子園に行けるかもしれない大事な一年にお前みたいな雨男が――」
「うるさいぞ。じいさんみたいな迷信を語るな。反吐が出る」
「遠足は雨が降りません。私が断言するので黙れくださいね」
 鵺と私がぴしゃりと言うと、渡辺君は今まで隠していた本性を浮かべて笑った。
「あまり人を高らかに馬鹿にしているとモテなくなるぞ。タラシ君」
 渡辺君はもう怖いものはないような、すっきりした顔で席に着くと、のんびりと空を見上げた。殴るよりも大きなダメージを受けたに違いない健太くんは、小さく悪かったと、渡辺君に謝罪していた。
「そうだな。周りと話し合え。グループだ。グループを作って話し合うんだ」
「はーい! 比奈と鵺君は私と話そうね」

 愛海がスキップしそうな弾けた歩き方で私と鵺の間に割って入る。愛海のおかげで、クラスの雰囲気ものんびりと穏やかなまま話し合いが出来た気がする。
姫神神社の神主が
おみくじ引いて申すには、
いつも青組 勝ち勝ち。
もしも青組負けたなら 電信柱に花が咲き
絵に書いたダルマさんが笑いだす笑いだす。

 家までの道なりで、私は忌みに向かい秘め百合を振り上げながら、高校の応援団の歌を歌った。
「お嬢、その歌なんすか」