観光客が、塀の上に佇む二人に向かってスマホやカメラ、ビデオカメラなどを向けている。溢れかえるフラッシュの中、二人はまんざらでもない顔を浮かべてポーズを決めていた。
「お前が遅刻したら、俺のせいな気がして後味が悪いので、仕方なく起こしに来た」
「馬鹿じゃないの。今、六時。学校なんて七時に起きれば余裕で間に合うでしよ」
 朝、何故か鳩と一緒にお店を掃いている鵺に殺意が覚えた。というか、私のパジャマ姿に鵺も鳩ももっと遠慮とかするべきだと思うのだけど。
「あら、貴方、いつも八時に起きて遅刻してるじゃないの。諦めなさい」
 お母さんはイケメンが二人になって喜んでいるのか、いつもより朝ご飯が豪勢だ。ウインナーと卵焼きとか、お魚とかだけなのに。朝から可愛らしく盛りつけられたポテトサラダを見たとき、うちが家ではない気がした。
「お嬢、今日から一緒に俺が宿題と受験に備えて勉強教えますからね」
「なんで受験? 私が四大を受けるとでも思ってるの?」
 お味噌汁を啜っていたら、鳩が目をぱちぱちさせる。
「え、お嬢、でも透真くんと同じ大学とか受けたくないですか?」
「何で透真君?」
 不思議がる私に、鳩とお母さんが顔を見合わせて溜息を吐いた。「気付かないまま終わるかもしれないわ」
「気付いた時点で追い付けないって悲しくないっすか?」
二人が何を言いたいのか分からないので、太ももを抓っておいた。「まあ、その時は俺の隣が開いてますっす。お嬢」
「構わん。比奈は俺の姫だ」
「……静かにご飯食べて。朝の占いが聞こえないでしょ」
 二人が火花をバチバチさせる理由に私が気付けるのは、あと何年後か、心打たれる何かに巡り合えた時だと思う。
「じゃあ、鳩君は私とお店の在庫と賞味期限を調べて発注書作りをしましょー。簡単よ、広告の裏にでもまとめればいいから」
「んな!」
 お母さんのいい加減さに鳩が顎が外れたように口を開いたが、私は気にせずお味噌汁を掻きこむと、秘め百合が入ったリュックを背負い、ひととせちゃんを首に巻いた。
「あのさ、あんたも見えているなら言うけど、黒い靄をどうにかできないの」
 一緒に塀の上に立った鵺は、悔しいけれ王子様だった。いや、正義のヒーローみたいな。さっきから私と鵺の周りをフラッシュが溢れかえっているのは、観光バスからの撮影カメラだ。
「世界征服したい俺の心が、汚れてないわけないだろう。自分では見えないが」