私にこの町から出て、普通の生活が出来るのか自分でも展望は見えてこない。でも――。
「比奈ちゃん、今までつまらない謎かけをしてすまなかったね」
 お爺ちゃんは清々しい顔で、10歳は生き返った顔をして立っていた。
「ううん。一個も解けなかったけど、でも今日全部解けたから楽しかったよ」
「儂も、いつまでも腐ってないで自分の酒代くらいは稼がないと、辰朗兄さんに此処まで来てくれた貸しが返せない」
「素敵な紳士っぽいお爺さんだったね。どんな話をしたの?」
 こんなに重お爺ちゃんを元気にさせたのは、一体どんな言葉をつかったのだろうか。
「ふふ。辰朗兄さんは『そんなに不幸なふりをしているが、お前は芽衣子と過ごした五十年を辛かったみたいに生きるのなら、今すぐここで死んでしまいなさい』ってきつーく言われてしまったよ」
「あはは、それはきつい。でも、辛くなかったんだよね?」
「ああ。幸せすぎて、――芽衣子が居なくなって不幸なふりして生きていたが、もう少し彼女の分までのんびり生きてやりたいな」
そ う笑うお爺ちゃんの顔にはもう何も迷いはなかった。すっかり晴れ渡った空みたい。ゴロゴロと笑った雷神は、自分が笑っても泣いても、二人の旅路を邪魔するのだと気付き、静かに微笑んだ。
 そうして、――二人の旅を空から応援したに違いない。
「そう言えば、ここにいたおじさん、いつの間にか逃げたな」
「げ、三分一さんめ」
「ちゃんと、うちとの契約は比奈のおばちゃんがきっぱり取り消してたからもういいっすよ」
「腹が減ったな」
 鵺の言葉に、皆のお腹がぐーっと鳴った。
「じゃあ、飯食いに行くか。鵺、お前、日田は焼きそばがうめーんだぞ」
「今はラーメンの気分だ」
「はいはーい。俺、馳走庵草八さんの割引券持ってるっすよ」
「よーし。鳩の奢りでそこにゴー!」
 私の合図で、泥だらけの鵺と透真くんが花屋にバタバタと侵入し、服だけ着替えて、泥だらけの顔で鳩に敬礼した。
「まじっすか。俺、今、駄菓子職人見習いで、お金ないっすよ」
「ホスト時代のお金でお願いします」
 三人の息の合った声に、鳩が仕方ないと頭を掻いた。「馳走庵草八とは何屋だ」
「そばだよー。豆田町にあるから徒歩で行けるよ」
「あそこのおっちゃん、めっちゃ感じがいいんだよな」
「そうなんす。古き良き時代の、生きる伝説的香りがするっす」
「香りかよ」
 全員の突っ込みに、鳩が大げさに扱けた。誰一人、普通の平凡な人はこの中に居なくても、何も見えない人と同じように私たちはお腹が空くのでしょうがないのである。
「ひととせちゃんも、食べるよね?」
 そう言うと、ひととせちゃんは素直に頷いた。