「月日に追いつこう。で、過去を払拭させようね、お爺ちゃん」
 ポンと叩いた肩が、大きくビクンと跳ねたけれどお爺ちゃんは豪快に笑う代わりに泣きだした。
「さきに行ってるっすよ。透真君、悪いけどお爺さんの上に傘を差して欲しいっす」
「じゃあ私も、鵺に渡辺君に謝罪させたらすぐに行くね」
「なっ そんなの後でいいではないか」
 そんな馬鹿なことを言う鵺に、秘め百合を目の前ギリギリに突き出す。
「あのね。鵺は敵を『後で』やっつけないって自分で言ったでしょ? だったら傷つけた渡辺君に『後で』謝るのはおかしいから」
 そう言うと、渋々納得したのか神社の裏の花畑の方へ向かった。「お前も色々と変なモノが見えるのだな」
「そうみたいね。でも鵺よりはきっと閉鎖的なものしかいえていないと思う。でも――こんなにはっきり見えている人は初めてだよ」
「そうなのか。俺は隠さずに言うせいか、結構周りが怖がるがお前らしれっとしているのだな」
 飄々と言ってのける鵺は、本当に大物だと思う。
「その秘め百合を触らせてくれ」
「駄目に決まってるじゃん。これは姫神様から頂いた徳のある妖刀なんですからね」
「……どうすれば俺もそんな妖刀が貰えるのだろうか。比奈も秘め百合も俺の野望の為に欲しい」
……一見、告白みたいな台詞だけどそれって結構酷い発言だよね。むかつく。「比奈さん、――もう大丈夫ですよ」
 鵺と向かっていた先の花畑の中、渡辺君が優しく花を撫でていた。巫女さんは自分だけ濡れないようにと縁側から渡辺君を見ていたが、私たちに手招きしてきた。
「彼の災厄は今、浄化されました」
「菖さん。じゃあさっきは渡辺君の為に嘘を言っていたんですね」
「ふふふ。彼の今後を応援するためです」
 菖さんは肩に乗っているひととせちゃんを私に手渡しながら静かに言う。
「五十年ほど前、ちょうど遊馬さんの前の肉体が亡くなられた時に降った雨がバイク事故を起こした。そしてひととせちゃんがこの花畑を荒らされて泣いてしまったから水神様が怒った。一つ一つは関係なかったのに――全て繋がってしまわれたのですね」
 「そうですね。なんだか不思議」