気に食わなかったのか健太くんがそうチャチャを入れると、サッカー部が小さく嘲笑し出した。
「そんな言い方やめなよ」
 すぐにクラス委員の渡辺君が注意するが、クラスの女子全員に睨まれてサッカー部はすぐに大人しくなった。
「ああ。頭は猿、手足は虎、体は狸、尾は蛇、声は虎(とら)鶫(つぐみ)と謳われた伝説上の怪獣の名前だから無理はない。俺は、正体がつかめない人という意味のこの名前が好きだが、変なのは否めない」
「全然変じゃないよー!」
「ミステリアスな名前」
「カッコいい」
「うむ。ありがとう」
 鵺は満足そうな顔で微笑むと、梶原先生に自分の席を尋ねる。全くのマイペースさだ。
「よろしくね、鵺君」
 渡辺君が人懐こい笑顔で話しかけると、鵺は偉そうに頷いた。
「比奈は、俺のものだが仲良くしよう」
 その言葉が一番、今日、この教室で発言した寒かった言葉だとは、まだ鵺は知る由もない。何故、鵺は渡辺君のあいさつに私の名前を出したのだろうか。
「おいお前、反省してないだろう」
 何度目か分からない梶原先生の呼び出しの中、私は鵺の言動に首を傾げる。結局、三時限目が終わったらお決まりの呼び出しだ。と、色々上の空だったら丸めたプリントで頭をスッコーンと叩けかれた。
「痛い」
「吉良 比奈! お前、今日の家庭訪問楽しみにしてろよ」
「うわ、今日だった。しかも一番最後だった」
「問題が多い生徒はな、時間が押してもいいように一番最後なんだって知って たか」
 にやりと笑いながら、宿題のプリントを差しだしてくる梶原先生はなかなか良い性格をしていると思う。
「それと俺ともう一人、お客が来るからそう保護者に伝えておくように」
「は? 校長? 教頭? 学年主任? 副担任?」
「違う。が、俺の名字はなんだ?」
 先生の意図が分からず、目を丸める。
「日田では特別珍しくもなく、それでいてクラスに何人もいるような名字の梶原です」
「そうだ。それでお前の家の隣の花屋は?」
「……よくある名前、梶原ですけど」
 愛海も透真君も、重爺ちゃんも先生も梶原だけれども。「そうだ。で、透真は先生の歳の離れたハトコだ」
 はとこ?
「間抜けな顔をするな。俺の親と透真の親が従姉弟ってことだ」