ふわり。私の黒く艶やかな髪は舞い上がり、鵺の顔は凛々しく無表情だ。
「申し訳ない。比奈が貧血で倒れていたので抱えてきた」
人生初のお暇様だっこをされた私は、辛そうな顔をして梶原先生を見上げてみた。が、鳩が豆鉄砲食らった顔をしたかと思えば、ぷるぷると震えてゆでタコのようになってしまった。ばればれだ。だけど――。
「きゃー!」
「優しいのね」
 停学明けというイメージを払拭するには、鵺には丁度良かったらしい。イケメンの評価はすぐに上がる。
「比奈を保健室へ連れて行ってほしいのだが、俺は場所が分からず、HRの邪魔をしてしまったな」
 すると、健太くんと彼女が立ちあがった。
「保健委員は私たちです。比奈ちゃん連れて行きますよ」
 げ。
 二人に抱えられて保健室っていうのはちょっと。だって熱も無ければ今日は健康体だし。
「鵺っ」
「分かった。案内さえしてもらえれば俺が抱えていよう」
「ぎゃああああ! 比奈だけずるいいい」
 その鵺の控え目な笑顔に愛海が発狂したけれど、この笑顔は偽物だ。私だって初めて見た笑顔が偽物とはちょっとむかつく。
 でも鵺は、廊下で私を待っているその姿からは、忌みが放出されていなかった。そう言えば最初、初めて会った時も出ていなかったもんね。その代り、愛海を視界から隠すような忌みが、ぼわっと広がった。――渡辺君のいる席の辺りから。
「先生、その人も俺たちの教室のクラスメイトですか」
 渡辺君が手を挙げたら、先生も渋々と頷いた。
「そうだ。訳あって始業式には間に合わなかったが、福岡からの転校生だ。諌山 鵺。お前、簡単に自己紹介していけ」
私の貧血が嘘だと分かっている梶原先生に止められ、私は渋々下ろしてもらうと自分の席に向かう。
「大丈夫?」
「え、あ、――渡辺君?」
 黒い綿菓子みたいになっている人が声だけで渡辺君だと分かった。「貧血で目の前がぼうっとしてて。渡辺君とは気付かなかった」
「いいよ。HR終わったら保健室にちゃんと行こうね」
 鵺や鳩みたいな一癖二癖ありそうじゃなく、ほんとうに現役高校生って感じの渡辺君だけど、――誰よりももやもやと黒いんだよね。
 すると、ひととせちゃんが私の首からするりと立ち上がって、渡辺君の机の上に立つ。渡辺君は気付かないけれど、ひととせちゃんが舞い降りた瞬間、忌みは消えてしまった。
「諌山 鵺。曲がったことは好きではない。以後、お見知り置きを」
(うわあ……)
 自己紹介なのに、何であんなに偉そうなの。よくよく聞けばコメントも中二臭い。忌みもきえてしまい私の興味は渡辺くんではなく、鵺の自己紹介にいってしまった。一番恐ろしいことは、鵺の発言に対して、クラスの女子がミステリアス、クールだと大絶賛してるところだ。
「鵺って変な名前だねー」