奥でお爺ちゃんとお婆ちゃんがお煎餅を食べながらテレビを見ている。こんな子供にずっと立たせて気付いていないなんて。
「僕の春夏秋冬(ひととせ)を守ってくれてありがとう」
「ひととせ?」
 男の子は目を輝かせて頷く。
「一昨日、徳のある神様に使役されそうになっていた狐だよ」
「え、えええ?」
「君のペットなの?」
「ううん。来世で一緒になろうねって約束した恋人なの」
 えへへ、と少年は笑うと二階を見上げた。
「は? ら?」
 予想もしていなかった言葉に、頭を思いっきり殴られた気がした。子供ってちょっと発想が怖い。
「上がってもいい? 僕、身体が弱いから敷地内からあまり出たらいけないんだ」
「えっと、じゃあ子狐ちゃん、連れて帰るの?」
 そう尋ねると、男の子は少年らしかぬ怪しい微笑を浮かべた。妖艶というか、大人びたというか、どんな経験をすればそんな色っぽく笑えるのだろう。不思議な子だ。
「菖さんに怒られたんだ。徳のあるお方にもう使役されるのが決まっていたのに、あんな雷を起こしたら駄目だよって」
「え、ちょっと本当に待って」
 まるで夢物語ようのな、現実から切り離された説明に頭を押さえる。「ただの子供の戯言だと思って下さい」
二階へ上がる階段の途中で、私はあることに気がついた。「ああああ!」
「どうしたんですか?」
「ちょっと待って。二分ぐらいここで待ってて」
部 屋は泥棒に入られたような悲惨な様子だったのを忘れていた。その悲惨な姿が当たり前だと思っていたから、危なかった。
 急いで襖を開けて、ベッドの上のモノと机の上のモノを押し入れに押し込んだ。すると、机の上でタオルに包まっていたはずの子狐が窓際に置かれている。さっき私が重爺ちゃんと見ていた月に照らされた子狐ちゃんは、ふわふわとした白い尻尾をたなびかせて、やっぱり丸まって眠っている。
「春夏秋冬」
 待ち切れなかったのか男の子が飛び込んできた。すると、子狐ちゃんがむくりと立ち上がり、そのまま窓から男の子の元へ飛び込んだ。