私たちは見えない敵と戦っている

「鵺君、殺傷能力の高い改造は、銃刀法違反になるのは知ってますか?」
 「ふ。未成年だから分からなかった。責任なら保護者がとるだろ」
反抗期真っ盛りらしい鵺は、親を困らせるのも楽しいのか、はたまた親でさえ野望のコマに過ぎないのか。
「その運送会社は一体何をしたの?」
「……」
 鵺は自分で作った改造銃を見つめながら、じっと耐えるように唇を噛む。けれど、諦めたかのように目を伏せて、小さく呟いた。
「早朝六時。俺たちは学校が借りてくれた大型バスで、隣の県であるボランティアイベントで子供たちに劇をするためにうとうとしながら向かっていた。その日は快晴で、霧もなく見渡しも良かった」
 其処までは私も鳩も調べたから知っているよ、とは言えず口を噤む。それでも、鵺はこの事件について口に出すのは鬼門だったのか、私たちの表情なんて見ようともせずただただ真っ直ぐに自分の作った銃を見つめる。
「俺はたまたまアラームが鳴って起きてしまい、外を見ていた。すると、後ろの車が急に距離を詰め、気付いた時には避けきれずぶつかってしまっていた。此方は後部座席のガラスが割れたり、ぶつかって前に飛び出して怪我を数人がした。後方に座るのは主に先輩たちだったから、受験前の先輩たちに怪我をさせてしまった俺は悔やんだ」
病院で手当てを受ける先輩たちに代わり、鵺たち後輩がボランティアイベントで、急遽着ぐるみを着て風船をあげたり歌を歌ったりすることになったらしい。一応、全員一度は病院に行った上で、怪我が無い子だけ。予定していた劇や手品は出来なくても、怪我をした先輩たちの為に鵺は頑張った。
「だが、テレビで見たニュースでは、まだトラック側の状況などの詳細が表に出てきてなくて。俺は本社の方へ急いで向かった。だが子供だったからか、俺を見てもうやつらは気付きもしなかった。すれ違う瞬間、こういったんだ」
 鵺は両手をぐっと握りしめ、少しだけ下を向いた。
「『ガキたちへや警察への対応は後回しだ。報道陣に手を回さないと評判が落ちるぞ』
『面倒なことになりましたね。飲酒と居眠りとは』」
「何それ! その絵に描いたような悪い奴らなんて存在するの?」
「実際にいた。その場でそれぞれ鼻と前歯を折ってやった。おかげで事件が報道されたのは、今思っても都合が良かったと思っている」
「そりゃあ腸煮えくりかえるよね。でも、まあ悪は葬り去られたんでしょ?」
「てんとう虫と四つ葉マークは四つ星運送って名前だ。大本は烏丸グループと言う、運送から不動産、リサイクルショップ、引っ越し業務など手掛けている組織の一つ。本社は東京。調べるのに時間はかからなかったが、先に事件が全く報道されなくなった」
「ちょっとジュース貰います」
「あ、ずるい」
 話の途中で喉でも乾いたのか、鳩が冷蔵庫を開けて冷えたペットボトルを取りだした。私にも同じくそれを一本くれた。一瞬、鳩の周りに忌みの様な薄灰色の霧が見えた気がしたのは多分気のせいだと思う。
「烏丸グループを叩き潰す。が、あいつの息子は福岡で議員をしているし、曾祖父は政治家だった。癒着もあれが権力もコネもある。正しい情報が操作されるならば、俺たちは見えている情報さえ、信じれなくなる」
「……俺もそう思うっすよ」
「東京の歌舞伎町で、拳銃が一本無くなった。確かあの日は、大規模な警察の一斉検挙があった日。隠していた銃が一丁、消えていました。隠しているのを知っていたのは、俺とか店長とか数人だったっす」
 鳩が鵺を睨みつけるけれど、炭酸ジュースを飲んでどうして泡が口の周りにつくのか、台無しになっている。
「その日、烏丸さんのお店が一番に警察に入られたんですよねえ。烏丸社長が来る日に。これって君がタレこんだんですか?」
「そうだと言ったらどうするんだ」
 ふんっと偉そうな態度のままの鵺に、鳩は白いシュワシュワした髭をつけながら怒鳴る。
「危ないことしちゃ、駄目ですよー。ほぼヤクザみたいなどうしようもないシステムの組織なんですからー。あーあ」
「心配は無用だ。何はともあれ、もし事故が起こっても対応もいい加減に消されてしまうぞ」