「はは、お嬢ってこんな時でも面白い……」
と言いつつも、鳩の顔がだんだんときりっとシリアス顔になっていく。「俺、足音消して歩くの得意っす。ちょっとお嬢は此処で待ってて下さいね」
「え、あ、でも」
「お嬢に何かあれば俺は駄菓子のプロになれないっす」
ガッツポーズなんてしながら行くけれど、床はミシ、ミシと音を立てる。だから言ったのに。いや、正確には言おうとしたのに。写真館の床は年季が入っている。
「壁側の道は音が静かだから」
「申し訳ないっす」
「良いから。ほら、行くよ」
「危ないと思ったら、お嬢だけでも逃げてくださいね」
鳩はそんな事を言うけれど、多分逆の場合は絶対に逃げ出さないと思う。そんな奴が私に何を言うやら。撮影場所の向こう側、スクリーンの壁紙の裏にドアがあった。諌山のお爺ちゃんは急いでいたのかもしれないけど、鍵をかけないのはこんな風に不用心だ。鳩が先頭を切り中へ入ると、黒く錆びた螺旋階段が現れる。螺旋階段の下は、一階の廊下に通じているようで段ボールが壁際に積まれている廊下が現れた。
静かに音を立てずに歩いても、鉄製の階段のせいか靴底の音がカツンカツンと響く。その音に気付いていないのは、きっと爆発音のせいだろう。近くでまたパアンと何かが弾ける音がした。風船が割れたような破裂音が響いたのは、リビングの奥の部屋だ。
リビングは男所帯とは思えないような、レースふりふりの可愛らしいテーブルに、一輪の薔薇が飾っているような、洋風さで素敵だ。流石、諌山のお爺ちゃんらしい。
「何を観察してるんすか。キッチンからまな板でも持って来て、お腹に入れていてください」
「え、まな板とか汚い」
と思いつつもキッチンを物色すると、真新しい林檎型のまな板を見つけたのでお腹に入れてみた。ピストルからもし弾が飛び出してきてもまな板さえあれば――大丈夫なはずがない。この野郎めが。っと、キッチンで色々考えていた間に、鳩が勝手に動いていた。もしかすると、私をわざとキッチンの方へ眼を向けさせて、一人で乗りこむとしたのかもしれない。まんまと鳩に踊らされた私が駆け付けると、鳩が鵺に跨り両手を押さえつけていた。
「離せ!」
「離したら、危ないっす」
どちらかが透真くんだったら絶対に透真君の力が大きいだろうけど、鵺と鳩ではどっこいどっこいのようだ。押さえつけられた鵺の方が若干分が悪いぐらい。
「お嬢、鵺君の手を拘束できるものとかないっすか」
よく見れば、押さえつけられた鵺の手は黒く煤で汚れている。開け放たれた部屋からは焦げくさい匂いも漂っている。それに――鵺からは真っ黒な忌みが放出されている。その忌みが、私の方へゆらゆら吸いこまれてくるのは、本当に気持ちが悪かった。
リュックの後ろから秘め百合を取り出し、その忌みを切っていく。拘束できそうなもの――。
「これ!」
と言いつつも、鳩の顔がだんだんときりっとシリアス顔になっていく。「俺、足音消して歩くの得意っす。ちょっとお嬢は此処で待ってて下さいね」
「え、あ、でも」
「お嬢に何かあれば俺は駄菓子のプロになれないっす」
ガッツポーズなんてしながら行くけれど、床はミシ、ミシと音を立てる。だから言ったのに。いや、正確には言おうとしたのに。写真館の床は年季が入っている。
「壁側の道は音が静かだから」
「申し訳ないっす」
「良いから。ほら、行くよ」
「危ないと思ったら、お嬢だけでも逃げてくださいね」
鳩はそんな事を言うけれど、多分逆の場合は絶対に逃げ出さないと思う。そんな奴が私に何を言うやら。撮影場所の向こう側、スクリーンの壁紙の裏にドアがあった。諌山のお爺ちゃんは急いでいたのかもしれないけど、鍵をかけないのはこんな風に不用心だ。鳩が先頭を切り中へ入ると、黒く錆びた螺旋階段が現れる。螺旋階段の下は、一階の廊下に通じているようで段ボールが壁際に積まれている廊下が現れた。
静かに音を立てずに歩いても、鉄製の階段のせいか靴底の音がカツンカツンと響く。その音に気付いていないのは、きっと爆発音のせいだろう。近くでまたパアンと何かが弾ける音がした。風船が割れたような破裂音が響いたのは、リビングの奥の部屋だ。
リビングは男所帯とは思えないような、レースふりふりの可愛らしいテーブルに、一輪の薔薇が飾っているような、洋風さで素敵だ。流石、諌山のお爺ちゃんらしい。
「何を観察してるんすか。キッチンからまな板でも持って来て、お腹に入れていてください」
「え、まな板とか汚い」
と思いつつもキッチンを物色すると、真新しい林檎型のまな板を見つけたのでお腹に入れてみた。ピストルからもし弾が飛び出してきてもまな板さえあれば――大丈夫なはずがない。この野郎めが。っと、キッチンで色々考えていた間に、鳩が勝手に動いていた。もしかすると、私をわざとキッチンの方へ眼を向けさせて、一人で乗りこむとしたのかもしれない。まんまと鳩に踊らされた私が駆け付けると、鳩が鵺に跨り両手を押さえつけていた。
「離せ!」
「離したら、危ないっす」
どちらかが透真くんだったら絶対に透真君の力が大きいだろうけど、鵺と鳩ではどっこいどっこいのようだ。押さえつけられた鵺の方が若干分が悪いぐらい。
「お嬢、鵺君の手を拘束できるものとかないっすか」
よく見れば、押さえつけられた鵺の手は黒く煤で汚れている。開け放たれた部屋からは焦げくさい匂いも漂っている。それに――鵺からは真っ黒な忌みが放出されている。その忌みが、私の方へゆらゆら吸いこまれてくるのは、本当に気持ちが悪かった。
リュックの後ろから秘め百合を取り出し、その忌みを切っていく。拘束できそうなもの――。
「これ!」



