私たちは見えない敵と戦っている

「すいません。この子も関係あるのでいいですか?」
 にっこりと鳩が笑うと、頬を染めるお姉さん。そうか。イケメンなら蛍光ピンクジャージを着ていてもイケメンパワーが使えるんだ。
「こんなところで一体何?」
 事務所の奥の書庫へ連れて行かれると鍵で小さな金庫を開けた。ただの一般人だと思っていた鳩が、どうしてこんな図書館の奥の金庫の中身が見れるような権限を持っているの?
「えーっと、や、ブラウジングコーナーに一カ月分の新聞しか置いてなかったから、過去一年間の新聞はありますかって聞いたっす。したら、書庫にあるけど持ち出し禁止だって言うから、見せてほしいなってお願いしたっす」
「新聞?」
「あの三分一ってキツネ目のお兄さん、ちょっと気になって」
「えー、何それ、何それ!」
 何故、さっきのたった一瞬でそんな図書館に来るような気になることがあったの。「
実は朝から、別の要件で来るはずだったんですが、意外と繋がってるかもって」
「勿体ぶらずに言いなさいよ!」
「お客様、お静かにお願いしたします。お探しの記事が見つかったら有料ですがコピーサービスもありますから仰ってください。私は、奥で監視していますのでごゆっくり」
 鳩を庇いつつも、奥で作業を始める。私と鳩は、丸テーブルの上に置かれた過去一年間の三社の新聞を前に目を丸くした。意外と、いや、365日分なのだからこれぐいらいあってもおかしくはないんだ。圧倒されつつも、鳩が助け船を出してくれた。
「今からちょうど一年ぐらい前。六月から七月の、高校が乗ったバスとトラックの衝突事件の記事が見たいっす」
「え、それって、もしかして鵺?」
 気づいてしまって聞くと、鳩は頷く。
「ネットの記事じゃあ消されてるところが多くて、まあ俺は消した人を知っています。だから消される前の新聞記事が一番正しいかなって」
「それと三分一さんの関係は?」
 ぺらりと新聞をめくりながら、鳩が鼻の上をポリポリと掻いた。
「三分一さんが、梱包から配送まで任せているって会社のトラックが鵺君のバスにぶつかってるっす」
「はあ?」
「俺、記事が隠ぺいされた時期にニュースでトラックのデザイン見たし。俺、一回見たら大体の事は忘れないっす」
「ってか、悪徳業者か調べてるの? うちの雛人形がやばいってこと?」
「まだ分からないっす。三分一さんが知らないでそこの運送会社よ提携してるのか、またはその運送会社が心を入れ替えて今は仕事しているのか。――でも確かもみ消されたニュースの内容は、運送業者に非があったっす」
 新聞をめくりながら指先で文字を追っている鳩は、見た目とは裏腹にすっごく知的に見えてしまう。蛍光ピンクジャージのくせに。
「うちのお雛様が壊されないように探してくれてるの?」
「そうっすね。結果的には鵺君なんてもうどうでもいいっす」
 私も鳩から一番遠い新聞の6月をザバっと取る。
「でも驚いたっす。普通、データーとしてパソコンに保存している記事を検索して見つけてから新聞自体を探すんですが、ここの図書館ってまだそーゆうのしてないんすね」
「難しい話はやめて」
 目の前に一年間の記事があるだけで結果オーライでいいじゃん。
「お嬢ってそーゆう所も可愛いっすよね」