「あ、また香りがした」
 仁王立ちの私に、そいつは立ち上がると近づいてくる。頭二個は大きい。つまりひょろっと180センチはあるってことだ。自分が小さいから、見下ろされるのも嫌いなのに。
「お嬢さんの後ろ、背中のリュックから香りがする。こう、今まで嗅いだことのない、豪華な香り。なんていうんだろ。ピカピカー、シャラシャランっって感じ」
「語彙力なさすぎる」
 そんなんじゃ、分からない。けど、この男は見えないはずの妖刀へ鼻を近づけて嗅いでいる。
「比奈、そこに刀はあるの?」
 お母さんが不思議そうに言うので、素直に頷く。母は、感心して、いや違う。尊敬の眼差しでこの男を見ている。
「凄いわあ。私も大原八幡宮の巫女様が言うまで、とてもじゃないけど信じられなかったのよ。凄いわねえ。薫るのねえ」
「ん? 何がっすか? このリュックの中身っすか?」
 正確には、リュックに突き刺さった妖刀『秘め百合』だ。今まで見えたのは、二人。どちらも日田に縁があり、神社やお寺で徳の高い人たちだけ。
「信用できない。一回、この男を刀で叩き切ってみてもいい?」
「ひいい。勘弁を!」
「比奈、止めなさい。あと、鳩(はと)君よ。覚えてあげてね」
「……覚えたくない」
 うちののほほんとした家族ではこいつを受け入れてしまう。私が、姑みたいにバシバシとイビッって追い出さなくては。
「鳩さん。早速だけどお使いにでも行ってきて」
「うわあ。早速お嬢さんのお役に立てるッスね。何なりと」
「二個隣に、写真館があるから。そこにプリント届けてきて。アイシャドーの濃い写真屋さんがいるからすぐわかるよ」
「かしこまり!」
 ……最後までちゃんと言えよ。と思いつつも、鳩さんは家のスリッパを勝手に履いて、さっさと行ってしまった。プリントをまだ受け取ってもいないのに。
「まじ?」
「比奈、写真屋さんに何の用?」