「そうだよ。俺も手伝うから」
 私が倒れる前提で話が進んでいるがもう何も言わないでおこう。
「河津、お前はやめとけ」
 珍しく先生からストップが掛った。ストップをかけるにしても、決まる直前ったどうなのだろうか。
「何でですか?」
 私が皆に見えないよう背を向けて睨むが、梶原先生はどこ吹く風だ。
「河津はキャプテン候補だ。委員会なんて参加する時間もない」
「なるほど」
「そうだねー。じゃあ私も無理かあ」
 そこでカップルがクラス委員を退き白紙に戻った。うわあ。どうしよう。どうするのが正解なんだ。
「転校生は余った場所でいい?」
愛 海が聞くと、梶原先生も忘れてたのかシャーペンで頭をポリポリ掻きだす。「流石に転校生に委員長は無理だな。吉良、お前がやれ」
「何で私が!?」
「それは女の子には可哀相なんじゃないっすか」
流 石サッカー部。モテる部のエースはだけあり、女の子を庇うことが日常の様な言い回し。うん。絶対にモテる。
「私も帰宅が遅くなると家の手伝いもできませんし」
「そうそう。今、この子の家にめっちゃイケメンの婿養子候補が修行に来てるから、比奈がお世話しなきゃだしね」
「嘘言わないでよ!」
 鳩のことはどうせ目立つ容姿だから皆にすぐ気付かれると思ったけれど、この形での披露は誤解しか生まないから止めて欲しい。だが次から次へと意見が飛び交い、場が収まらない。
 どうしよう。一番最悪の私が委員長っていうのは、不登校の始まりにしかならない。だったら保健委員で我慢しよう。
 そう思った時だった。ぞくりと背中に悪寒が走った。大きく飛び上がった私の後ろを、自動販売機ぐらい大きな壁が通過――ではなく巨大な男の子が通り過ぎ、黒板へ向かう。
 黒板のチョークを握りしめるとその男の子は河津くんの名前を消して、大きく自分の名前をそこに書いた。渡辺(わたなべ) 力(りき)弥(や)。
「委員とかは雨で中止になったりしないんでしょ、俺がします」
 自動販売機かと思ったその男の子は、どんくさそうな、おっとりした顔で笑った。が、チョークを置いた瞬間、黒板消しを自分の足に落としてしまいせっせと手で叩いて汚れを落としていた。
 びっくりした。どんくさいからではなくて、人が良さそうな笑顔の彼から、忌みと同じ黒い靄がふわふわと巻きついていたから。こんな靄、鵺ぐらいしか生み出さないと思っていたのに。
「名前、書いていい?」