いきなり始まったファンタジーな展開に思わず目を白黒させる。いや、秘め百合も相当なファンタジーな品物かもしれないけど。とうとう目に見えないはずのモノが視界にちらほらと現実に姿を現し出したような気がして不思議で落ちつかない。
『結果的にお狐様が逃げ出し、尊い方が怒って鳥居に雷を落とされた。つまり今、うちの神社にお狐様を匿えば、その方自身がやってきたとき、簡単に連れ浚われてしまう。ですので』
 ですので? 嫌な予感しかしない。
『秘め百合の力でお狐様の気配を隠せる比奈様の元に匿っていただければ――』
「ええええええ」
『私がそちらへ向かえば道ができてしまいます故、電話で簡単にすませてすいません』
 電話の向こうで、神主さんが『醤油どこー』っと呑気な事を言いやがった。  
 住職さんは、菖さんより変な物が見えないからそんな話をしたことはないけど。私たちの大事な話中に食事取られるとイラっとしてしまうね。さすがに。
『お醤油は目の前です。ほれ、ご飯粒が額についていますよ』
 なんで額にご飯粒が付くのだろうか。子供でも時々、え、そんなこに?って場所にご飯粒を付けることがあるけれど、神主はおっさんだろう。
『すんません。豆田町内ならば私も安心ですし。比奈さんなら尚更ーーああ、なんです。ほうれん草が醤油の海で泳いでます。しっかり味がついてるのに、なぜ、簡単に殺すのですか』
「菖さん?」
電話の向こうで、額をぺちんと叩く音がした。菖さんにとっては子狐の話は、料理の話と同時に会話するぐらい日常の話の様だった。
「比奈さん、目の前でほうれん草が溺死させられました故に、用件はこれだけですので失礼いたします」
「は? この子、どうすればいいの!? 何を食べるの!? トイレはするの!? え、私が飼うの!?」