「え!?」
 今ちょうど行こうと思っていたのにナイスタイミングで驚いた。
「菖さんって秘め百合が見える巫女さんよね?」
「しーっ」
 愛海と鳩には刀の事を言っていないしこれからも言うつもりはないのだから、そんな聞こえるように言わないでほしい。見えないものを信じさせるのはきっと心も折れる作業だから。
「あら、その帽子! 狐?」
「違うよ。石だよ。子機かして」
 子機を貰いながら、自分の部屋へ上がる。
……ん? お母さん今、狐って言わなかった?
「この子、見えてるの?」
 振り返って確認すると、お母さんは頷いた。
「ええ。たまにゴソゴソ動いてるもの。可愛いわね」
 たまに。のんびりと言うが、きっと全部は見えていない。それでも、一応石ではないと認識しているだけ凄いのかも知らない。
「夕飯、先に食べとくわよ」
 そして母の勘なのか女の勘なのか。気を使ってくれたからゆっくりと話ができる。部屋に入り、脱ぎ散らかした服だらけのベットにダイブして転がりながら子機の保留ボタンを押す。
「もしもし?」
『夜分遅くすいません。比奈さん、お久しぶりです』
 表情のない淡々とした声はいつも通りだ。
「あの、もしかして子狐ちゃんの事でしょうか」
『そうです。保護、ありがとうございます』
 保護。
「この子狐は、普通の子狐じゃないですよね?」
『はい。姫神様が使役されておりました。私以外には見えないはずでしたが、あまりにも狐様の気持ちが強すぎて、具現化されたのではと思いまして』
「気持ち?」
『はい。お狐様を使役されたいと願う尊いお方の元へ今日、向かわれるはずでした。丁度鳥居にその方の使いが舞い降りるはずで――』