狐の嫁入りは、晴れの日の涙。
『帽子、明日持ってこいよ。服装チェックで減点されちまう』
 そのメッセージに気付いたのは受信されてから五時間後。メッセージのやりとりってすぐ返さなきゃ気持ち悪かったけど、ポンポンポポポンとレスポンスが早すぎると携帯を弄るだけで何もできなくなる。
 私はそれが嫌なので携帯はあまり見ないで一気にまとめて返す派になった。だから透真くんも教室に尋ねに来る事になってしまったのだ。いかんいかん。真面目に返さねば。
『御意』
 武士言葉で返信した後、透真君の帽子の中の子狐ちゃんを覗く。雷も止み、空も晴れたらだいぶ状態も安定したように思える。だったら今なら返しに行けるかもしれない。食卓をちらりと見れば、昨日の残りのカレーで作った焼きカレーの用意が出来ている。愛海が鳩の腕にぴったり寄り添いながら、一緒に準備しているのはなかなか見ていて面白い。スポーツ少女みたいなオシャレもしない外見で、愛海はかなりのイケメン好きのミーハーだ。しかも年上で、話し上手となれば、離したくないのだろう。フォールド ミー、鳩だ。
 いや、英語は苦手なのだからむやみやたらに使うのは止めとこう。秘め百合を持ち、裏口から出ようとした時だ。
「比奈ー、何処ー?」
「俺が探しましょうか!」
 空気を読めないお母さんと鳩には本当にがっかりした。
「何?」
  仕方なく靴を裏口に隠したまま、居間に戻る。するとお母さんが子機を持って立っていた。「姫神神社の菖(あやめ)さんから電話」