家まで近いの?写真館のお爺ちゃんは、私が生まれた時からすでにずっと一人で写真屋さんしてたけど、同い年の孫がいるなんて初耳だ。小学校から今に至るまで、学校の行事ではあの人が写真を撮りに来ていたし。
「諌山写真館だ。頼むぞ」
「はいはいはーい」
 面倒臭そうに言うと、梶原先生も頭を抱えていた。手がかかる生徒が一人増えたのだから、心中をお察しする。だけど、私だって、好きで遅刻するような変わり者ではない。
「失礼しました」
 職員室から出ると、背中の鞄から妖刀を抜く。人には見えないこの刀は、唯一私を守ってくれるお守りだ。学校の廊下だって、あちこちに黒く霞むぼやが見える。その黒いぼやに当たると、私の体調はすぐに悪くなる。小学生時代までは病弱な美少女だと誤解されていたぐらい。今は、この見えない刀のおかげで大丈夫。近づいてきたぼやは、妖刀をバンバン振り回せば、すぐに消滅するのだから。
 この刀は、広瀬淡窓という日田の学問の師の縁の神社、姫神神社で手に入れた。学問の師を失った十三歳の広瀬淡窓のもとへ現れたという姫神様の所有物だとか、あの枕元に現れた姫神が言っていた。が、人に見えない黒い『忌み』が、人に見えない刀で切れるのは好都合。なぜ刀が私には持てるのかとか、この体質とか、もうあまり気にならなくなった。だって答えはどうせ、一度も手に掴めたことはないのだから。
 自分の家の周りには黒い靄は現れない。段々と消えていくというか、近寄れないのかもしれない。それか、人が賑わっているからなのかな。
 私が住む大分県日田市の豆田町では、二月中旬から3月まで『天領日田おひなまつり』が行われていて、その時は自分の家に帰るまで、黒い忌みには出会わなかった。その分、自分の家に入るのも一苦労だ。観光客が道なりに溢れているから。
 元、旧家の家のひな人形が展示し、観光客に公開、展示されるこの期間は大賑わいだ。私の家は豆田町で駄菓子屋をしてるから関係ないけど、お母さんの実家が旧家の酒造で、お雛祭りのひな人形を飾っているために、観光シーズンは忙しい。今は、その片付けに追われている始末。
「ただいまー」
 駄菓子屋から家へ入ると、既に近所の子供が数名、アニメのキャラシールカードのくじに集まっていた。