「ふふふ。重爺ちゃんに見せたいものがあってね」
 下の名前で呼んでみると、お爺ちゃんは片目を見開いた。まだ頭はヒリヒリ痛むけど、全員分のプリンを食べた罰だと思えば安いものよ。
「これ、諌山のお爺ちゃんが持ってないならどうぞって」
 額縁を渡すと、お爺ちゃんは固まった。しわくちゃの顔では表情の変化も読み取れず首を傾げた。
「どう? 持ってる?」
「んや。これは義兄さんに持って行ってもらった奴だな。ばあさんが綺麗すぎる」
 重爺ちゃんと呼んだらちょっとだけ嬉しそうだったので名前で呼ぶことにしたけど、重爺ちゃんは指先で写真をなぞる。
「皆、嘘ついた顔で笑っとるなあ」
「嘘?」
「一番正直で美しい婆さんが、一番のウソツキじゃ」
「それ、矛盾してるよー」
「それでいいばい」
 お爺ちゃんはのろのろとお店の奥へ歩いて行くと、小さな椅子を持ってきた。私の為かと期待したけれど、壁に寄せてそこに額縁を並べて自分の隣に置いた。
「嘘を吐かせたのは、雷神がゴロゴロうるさかったから。 儂が五月蠅かったからじゃよ」
「重お爺ちゃん」
「後悔しちょる。婆さんは最後まで嘘の関係を大事にしていたから」
 嘘の関係、かあ。おじいちゃんが謎かけばっかするようになったのは、その嘘の関係が苦しくなったから?今もこうして殻に閉じこもったまま、私に助けを求めているような気がした。知られたくない。気付いてほしい。苦しい。悲しい。それでも芽衣子さんが好き。重お爺ちゃんの頭の中は、今、そんな感情がマーブル状に溶け合って複雑に絡まっていっているような気がする。
「おじいちゃんは、私に謎を解いてほしいの?」
 その言葉に、お爺ちゃんは数秒だけ私の顔を見て固まってけれど、静かに頷いた。
「自分から言うには、遅すぎて恥ずかしいんじゃろうか。現実を突きつけられるのが怖いのだろうか」
 写真の三人は、それぞれ笑って、ふざけて、無表情で、一貫性もないけれど、二人とも芽衣子さんに寄り添っている。「
思い出が嘘で隠されるのが怖くて、儂はここで日がな一日、真実を思い出す。繰り返し繰り返し」
「 重爺ちゃん……」
にわか雨の上がった空から光のカーテンがゆらゆらと揺れて地面に到着する前には消えてしまっている。