残念ながら私は旧家のお嬢様ではなく、ビール工場の営業マンの父と駄菓子屋でぼーっとしている母の間に生まれた、頭の中身まで可愛い女子高生である。「その上、お兄さんと同級生よ。お兄さんが大学へ進学するころには、深夜に居酒屋でバイトまでしてたもの。比べられて辛かったでしょうねえ」
写真を見ても、確かに明らかに対照的な二人だ。真面目でエリートの兄と、ちゃらんぽらんなイケメンの幼馴染。芽衣子さんが生きていたらどうしておじいちゃんを好きになったのか聞いてみたいものだ。
「じゃあ、なんで二人は結婚したんだろう」
「そうねえ、確か――」
諌山のお爺ちゃんは壁の写真を見上げながら頷く。
「確か、芽衣子さんがバイクとぶつかって一日意識が戻らなかった事故の時ね。あの時に――……」
「勿体ぶるなよ」
「いや、私は関係ない人だから余り言わないほうがいいじゃない?」
「知りたいから聞きに来たっす」
最初は鵺のことだったのに、いつの間にか私たちはお爺ちゃんの過去に興味を移していた。「記憶喪失よ。芽衣子さん、記憶喪失になっちゃったの。えっと、その――」
「はっきり言ってったば!」
私が脚立を二段上がり、諌山のお爺ちゃんを見下ろすと、観念したように溜息を吐く。「
記憶喪失というか、記憶を混濁しちゃったっというか。重ちゃんとお兄さんの記憶だけ忘れちゃったみたい」
小指を立てながら紅茶を飲むと、お爺ちゃんは水面を揺らして切なげに言う。「真実を知りたいのなら、私ではなく芽衣子さんのお兄さんに聞きなさいな」
「そうだね。透真くん、もしおじさんが来る時は教えてよ」
「え、ああ。向こうももう歳だから日田まで来るか分からんけど」
「来るっすよ。芽衣子さんの一周忌とか。妹さんなわけですし」
「鳩さん、頭良いっすね」
芽衣子お婆ちゃんの一周忌かあ。お爺ちゃんは一年近くも、私と朝、答えのない謎かけをしてきたんだだと思うと胸がぎゅっと切なくなった。
「この写真、花屋に飾っていないのなら持って行っても良いわよ」
そこで諌山のおじいちゃんはプリンが全て食べられていることに気づいて慌てだした。プリンは皆がなかなか食べないので私が食べておいたのだ。残念がるお爺ちゃんをよしよしと鳩君が撫でながら、透真くんはその写真をじーっと見る。
「見たことないと思うから、一応貰っておく」
「多分、ネガもあるんじゃないかしら。うちもデジタルに移行しちゃったから、ネガも保管に困ってるしあげるわよ」
写真を見ても、確かに明らかに対照的な二人だ。真面目でエリートの兄と、ちゃらんぽらんなイケメンの幼馴染。芽衣子さんが生きていたらどうしておじいちゃんを好きになったのか聞いてみたいものだ。
「じゃあ、なんで二人は結婚したんだろう」
「そうねえ、確か――」
諌山のお爺ちゃんは壁の写真を見上げながら頷く。
「確か、芽衣子さんがバイクとぶつかって一日意識が戻らなかった事故の時ね。あの時に――……」
「勿体ぶるなよ」
「いや、私は関係ない人だから余り言わないほうがいいじゃない?」
「知りたいから聞きに来たっす」
最初は鵺のことだったのに、いつの間にか私たちはお爺ちゃんの過去に興味を移していた。「記憶喪失よ。芽衣子さん、記憶喪失になっちゃったの。えっと、その――」
「はっきり言ってったば!」
私が脚立を二段上がり、諌山のお爺ちゃんを見下ろすと、観念したように溜息を吐く。「
記憶喪失というか、記憶を混濁しちゃったっというか。重ちゃんとお兄さんの記憶だけ忘れちゃったみたい」
小指を立てながら紅茶を飲むと、お爺ちゃんは水面を揺らして切なげに言う。「真実を知りたいのなら、私ではなく芽衣子さんのお兄さんに聞きなさいな」
「そうだね。透真くん、もしおじさんが来る時は教えてよ」
「え、ああ。向こうももう歳だから日田まで来るか分からんけど」
「来るっすよ。芽衣子さんの一周忌とか。妹さんなわけですし」
「鳩さん、頭良いっすね」
芽衣子お婆ちゃんの一周忌かあ。お爺ちゃんは一年近くも、私と朝、答えのない謎かけをしてきたんだだと思うと胸がぎゅっと切なくなった。
「この写真、花屋に飾っていないのなら持って行っても良いわよ」
そこで諌山のおじいちゃんはプリンが全て食べられていることに気づいて慌てだした。プリンは皆がなかなか食べないので私が食べておいたのだ。残念がるお爺ちゃんをよしよしと鳩君が撫でながら、透真くんはその写真をじーっと見る。
「見たことないと思うから、一応貰っておく」
「多分、ネガもあるんじゃないかしら。うちもデジタルに移行しちゃったから、ネガも保管に困ってるしあげるわよ」



