「んー。ばあちゃんの兄って人なら居るけど、あの人は福岡でサラリーマンしてて、今は定年してなんか仕事してるはず」
「なんかって何よ」
「知らんよー。でもうちのじいちゃんと正反対の、なんてゆーか、エリートサラリーマンみたいな感じの堅い人ばい。爺ちゃんは卑怯ななぞなぞしてくるような奴だけど。でもたまにあの人が日田に顔出すと爺ちゃんと二人で飲みに行くんだよなあ」
食べられないパンを『ルパン』というような卑怯ななぞなぞだもんね。仕方ない。おじいちゃんは心配だったけれど、いつもよりは今日は会話が出来たと思うので、そのままにし、諌山写真館を目指した。私たちの考えでは、諌山のおじいちゃんが仕事している二階に、前回の事もあるし居ないんじゃないかと思い、仕事場へ向かう。鵺と言う正体不明な相手の事を少しでも知りたいし。
「そう言えば正体不明ってえば、鳩さんも不明ばい」
「え、俺っすか」
「怪しいよね。怪しいくせにたまに言うことが頭良いんだよ」
「へえ。そんなに頭がいいのに大学とか行ってないんすか?」
「俺の事は大丈夫っすから。さ、行きましょう」
 鳩が何故か一段ごとに階段で扱けるという明らかな挙動不審を見せつつも二階の写真館へ入った。重い硝子戸を引くと、中でディスクに向かい写真を確認している諌山のお爺ちゃんが居た。お爺ちゃん老眼鏡をズらして私たちの方を向いた。
「あら、いらっしゃい」
「こんにちはー」
「お久しぶりです」
「こんにわっす。うわー。めっちゃ天井高いっす!」
 写真館の中は真っ暗で、ディスクの上のみ小さな電気スタンドがついている。二階で写真の確認や焼き回しをして、奥の撮影スペースで写真を撮るのだけど、奥はまた階段で少し下がる。そして壁には白黒写真から最近の七五三の写真など隙間なく飾っている。一番上とか脚立に登って飾ったのだろうか。
「ねえ、この中に諌山のお爺ちゃんの奥さんとか居るの?」
「やあねえ。皆で来たと思ったらそんな事調べに来たのお? 私、春の遠足の仕事で引っ張りだこで忙しくてそれどころじゃないのよう」
 そのわりには、諌山のお爺ちゃんから疲れた様子は見受けられない。「いえ。鵺について色々と聞きたくて来ました」
「透真くん、上の写真とか戦後って感じっすよ。着物の大和撫子だらけっす」
「ちょっと鳩、うるさい」
 ぴしゃりと言うと、おじいちゃんは眼鏡を置いて、壁のスイッチを押し電気をつけてくれた。
「鵺は、別れた奥さんが引き取った子供の子だから、私も此処に引き取るまで会った事が無かったのよ」
 その割には、お尻を蹴飛ばしたりとスパルタだったけど。
「上手く言えないんだけど、向こうの高校でバスの事故が起きた時に、バス側の会社と派手に喧嘩しちゃってね。で、ずっと塞ぎこんでたから思い出したかのように私のところに押し付けてきたのよねえ。こんな喋り方の祖父なんていじめられるって、私の事は死んだ事にしてたのに。酷くない?」