「ライター……」
 なんでそんなデザインのライターが。
「うお。本当だ。ってかガスボンベと一緒に買うのがおすすめって出てるぞ」
 某大型インターネットショッピングサイトでは、ピストルライターとガスボンベが圧倒的な売り上げを叩きだしている。それはそれで怖いものがある。
「仕方ないから、写真屋のおじいちゃんに言うか。拳銃所持は犯罪だもんなあ」
「刀もっすよ。刀狩りっす」
 刀は刀でも、人に見えない刀は大丈夫。私の秘め百合は刀狩りには関係ない。でも――もしあいつの銃が本物ならば、なんとか奪いたい。あいつが調子に乗っているのはあれを持っているからだ。無かったらきっと、本当の情けない姿が現れるはずだから。銃さえ奪えれば私のことをお姫様だの頭が沸いたことも言わないはずだ。「
じゃあ、諌山のお爺ちゃんに会いに行こう」
「そうだった。ついでにじいちゃんの昨日のタッパ持って帰るように言われてたんだ。やだなあ。爺ちゃん、変なことしか言わないから会話にならないし」
 そんな事を言わなくても――と言いたかったけど実際に毎日介護している身内だからこその愚痴だと思うと、受け流すしかなかった。とても不服だったけど。
「お母さん、店番お願いねー」
「はいはいーい。今日は雷だからもう来ないだろうけどね」
 蜜柑を食べながら炬燵から手を振る母に、今日は一日何をやっていたのか聞きたいぐらいだ。鳩だって客が来なければまず修行云々の前に何もできないし。
「げえ、爺ちゃん」
 先に店の前に出て、靴をトントンと履いていた透真は溜息混じりに声を荒げた。どうやら雨の中、シャッターを上げて中から外を座って見ていたらしい。「傘を忘れずに持っていったのかな」
 その言葉に首を振る。すると目を細めて暖かく笑った。雷神のように豪快ではないけど笑った。「そうか。まあタイミングかな」
いつもより普通の会話をしているので少しだけ透真も表情を和らげた。
「タッパ持って帰るよ。今日は、昨日作った奴を食べろって母さんが」
「そうか。親切にどうも」
「……別に、母さんとじいちゃんは親子なんだから問題ないばい」
「そうだなー。婆さんも最後まで儂を、……」
 お爺ちゃんはそのあとの言葉を続けずに、空を見上げる。
「婆さんは、いつ気付くだろうか。気づかない方が幸せなのだろうか。これは――儂のせいだと雷神もわらっちょるばい」
「どうしたの? 梶原のお爺ちゃん?」
 お爺ちゃんは雨の空を見ながらブツブツと言っている。鳩も首を傾げているので、謎かけではないようだ。自分の中の何かについてブツブツと言っているようだ。
「カレーかあ。年寄りに塩分とか大丈夫なんだろうか。爺ちゃん、ご飯は解凍して、カレーは温めて食べろよ」
 透真君がそう言うと、お爺ちゃんは小さく手を上げて返事をすると、またブツブツと空を見上げる。それに透真君は表情を曇らせた。
「爺ちゃん、本当にどうしちまったんだろう」
「お婆ちゃんの話はよくするよね」
「だけど、やっぱボケてるの見ると、凹む」
 腕を組みながら複雑そうな透真君に、どんな言葉をかけるべきなのか思い浮かばず鳩を見る。鳩も、分かりやすいぐらい慌てているので頼れないと判断できた。
「おじいちゃんの親友とか友達とか兄弟とかって居ないんすか? 腹を割って話せる相手っす」