「んもーう! 鵺ちゃーん! 駄目じゃない、お店の方、お客が来たなら内線してって言ったのにい」
 クネクネしながら一階の自宅から、顔パックしながら現れたネグリジェのおじいちゃんが、可愛いく両手を振り回しながらやってくる。御齢、六十二歳の諌山写真館のオーナーだ。
「うるさい。気持ち悪い」
「あら、そんな事言っていいの? 世界中を支配したいくせに私のドロップキックで気絶したもやしのくせに」
 真っ赤なネイルを輝かせながら身体をクネクネさせて、鵺を見下ろした。諌山カメラマンは、百八十センチ越えの巨大で美しい肉体美で、美肌ケアも怠らない美意識の高いおじいさんだ。「
諌山のおじいちゃん、本当にこの人の思考回路が変わるまで殴り続けてください」
「あら、比奈ちゃん。鵺ちゃんを殴るなんて、そんな私にはできないわ―」
「何で?」
「ネイル、まだ乾いてないのよう」
「じゃあ乾いたら?」
「任せて!」
 舌をぴょんと出して、お茶目な様子全開の諌山のおじいちゃんは鵺を睨む。
「さっさとその玩具を仕舞わねーかっ 転校初日にナイフで上級生を脅すようなガキが比奈ちゃんに近づくな」
ドスの利いた唸るような低い声に、顔パックの上からでも分かるぐらい血管が浮き出てくる。これこそがギャップ萌えなのかもしれない。
 私は、明日梶原先生に教えてあげようと誓う。
「ごめんね、比奈ちゃん。プリント、ありがとうね。この子も三日の謹慎後にちゃんと挨拶行くからね」
 未だに私に斬られて呆然としている鵺は、諌山のお爺ちゃんに思いっきりお尻を蹴られていた。結構な音だったけれど、鵺は無表情のままだ。
「じゃあ帰る。向かってくるなら、いつでもあんたの腐った根性叩き斬ってやるから」
「お嬢、まじで格好いいッス」