無意識に向かった先は、一度しか行った事のない、場所。

昼間の風景と夜の風景では、分からない所だらけでいっぱい迷ってしまったけれど、ふらふらと目指す。携帯を強く握り締めて、会えなくても良い。会わなくても良い。ただ、少しでも顔を見れば安心できる気がして、向かう。


みかどは夜の石垣の階段を登り出した。あんなにキツかった108段の階段が、全然キツく感じられないほど無心に。ただ登りきった後は、急に足が竦んでしまい、膝をついていた。夜の孔礼寺は、真っ暗で数メートル起きにある電灯には蛾や虫が集まっている。
 静寂に包まれた参道を、足音を殺しながら歩いて行く。ドクドクと心臓が高鳴るのを感じながら。人の気配のしない縁側の庭を横切り、アルジャーノンの友達がいる温室の前に差し掛かった時、彼を見つけた。タオルで乱暴に髪を拭いているから、お風呂上がりのようだ。けれど、みかどが探していた相手が居た。一目見たら、ドッと疲れが出てしまい、座り込んで動けなくなった。お風呂上がりなのに、顎に髭があって剃ってない事に笑うと、少しだだけ元気が出た

(――よし、帰ろう)
 会えただけで良かったし、少しだけ見れて元気が出たから。そう思って、こっそり池の死角や岩に隠れ帰ろうとしていたら携帯が震えだした。
「きゃっ」
 慌てて落とした携帯を、手探りで探していると視線を感じる。
「――みかど」
「っ」
 気づかれた。すぐに立ち上がり後ろに下がると、裸足のまま縁側を降りた彼が、此方に向かって来る。
「お前、こんな時間にどうした」

 心配してくれている岳理が近づいてくるのが、怖くて、でも何で怖いのか分からなくて、みかどは踵を返し、慌てて逃げ出しました。
「みかど! おい! 階段は走るなっ」
 階段を駆け下りるのに、どんどん岳理の声は近づいて来る。それでも夜の暗い階段を、全力でみかどは駆け降りて行く。
「みかどっ」