「賭け、……かしら。大博打は好きではないのですが、私の直感を信じてみようかと。鳴海さん、貴女の事を『みかどちゃん』と『ちゃん付け』なんですってね」
「あ、はい……」
「鳴海さん、弟の様に可愛がってる理人さん達でも『さん』付けで、どこか距離を置いてらしたのよ なのに、貴女を『みかどちゃん』と呼ぶとお聞きしたら、何故か……」
目を伏せる管理人は、儚げに寂しげに、昔を懐かしむ様に微笑む。
「可能性を信じてみようって思ってしまったの」
「か、管理人さん……」
「ふふ。麗子って気軽に呼んで下さいな」
麗子は、千景と同様に、内面から出る美しさと、慈愛に満ちた微笑みを携えた、マリア様のような女性だとみかどは思っていた。
「あら、みかどさん、何か勘違いしてらっしゃるわね」
「へっ……」
「私が、あの部屋に鳴海さんを監禁しているのよ」
「ええ!」
「壊れてしまうぐらいなら、私はあの部屋に居て欲しいの。だから、貴女に賭けてみたいのよ」
花瓶を持ち上げて隣の部屋に消えてしまった。
優しい人、見た瞬間分かった。優しくて、凛と咲く百合のように美しい人。
なのに、なんで店長を閉じ込めるのだろう。それに、義母が店長の姉だとしても、苗字も違ったし、全然似てもないし。
みかどは頭がぐるぐるして、吐いてしまいそうで口を押さえる。不安で、不安で、心臓が痛い。
「ごめんなさいね。やっぱり話の順序が上手く決められないわ。老人の昔話だと思って、鳴海さんの幼少時代を遡って宜しいかしら」
胸を押さえながら、滴り落ちる汗も拭えず、声も発せずただ頷いた。
「あのカフェは元はただのアパートでしてね、亡くなった夫が住んでいた場所ですの。夫の遺言で壊して欲しくない、と言うから仕方なく……残しているつもりでしたわ」
麗子は鞄からハンカチを取り出した。
「だって、あの方ったらあの場所に愛人を囲っていましたのよ」



