「海外で人気って評判のトマトパックに、美肌ケアのクリーム、これは貴女の写真を渡してイメージして作って貰ったイヤリング、此方は……」
「ま、待って下さい! こんな身分不相応な品物頂く訳にはいきません!」
見たこともない高級な箱は、多分ブランド品なんだと思われる。こんな小娘が似合うわけないようなお土産で溢れてみかどの顔は真っ青だ。
みかどが戸惑っていると、店長が珈琲を運んで来た。
「おばさんは、毎回毎回買いすぎなんですよ」
「だって、鳴海さんの喜ぶ顔が見たくって」
そう言って頬に手をやり、困ったように微笑む。
「前回の時、鳴海さんがベルギーチョコを美味しいって言ってらしたから、今回も買いにいったの。お店なら冷蔵庫が大きいから入るでしょう」
店長は嬉しさを隠すように咳払いをした。
「ですが、僕1人じゃとても食べきれませんよ。お気持ちは嬉しいですが、少し控えて下さい」
そう言うと、今度は麗子が真面目な顔をした。
「だって、貴男が私に毎月、学費分だと仕送りをなさるから。給料の殆どを送るって事は、貴男とても貧乏な生活をなさってるでしょ それにまたフラッシュバックで倒れたと知らせが来たら、心配になるのは当然でございましょう」
珈琲を一口飲み、店長を近くへ来るように呼ぶ。店長が納豆生活や雑草を食べようと、貧乏な食生活だったのは学費を返していたからか。本当の親子以上に深い絆を感じたけれど、何か少し店長が一線を引いているみたいだった。店長はこんなに大切にして下さっている麗子にも、やんわりと距離を置いている。
「奥様」
運転手に呼ばれ、少し振り返る。耳元で何か囁く運転手に、麗子は少し困った顔をした。
「唯一さんや理人さん達にもお会いしたかったのに、もう行かなければ」
みかども冷や汗が出た。今帰られたら、結局何も分からないままになってしまう。
「私に挨拶したいと言ってる方々とお会いしなければいけないのよ。明日はイギリスに飛ぶので、お見送りに……」
そう言って、珈琲カップを持つ手を止めた。
「明日は土曜日だからお見送りは無理でしたわね。次はまた1ヶ月後に帰る予定だから、気にしないで。大変、もう約束の時間だわ」
「あの!」
二人の会話に無理やり、口を挟んで申し訳いと思いつつ、声をかけた。
「車まで送らせて下さい!」
そう言うと、麗子は優しく笑った。
「鳴海さん、彼女ちょっとだけお借りしますわね」
「えっ」
「すぐに返すわ。貴方が部屋に戻った後ね」



