「『逢瀬』……」
お酒好きのドラガンは首を傾げ、もう1つも見てまた首を傾げました。
「……『初恋』」
考え込んだ後、岳理に尋ねました。
「こんな日本酒、どこで買ったんじゃ」
「売ってねぇよ」
岳理はドラガンから日本酒を奪い取ると、ラベルを剥がす。
「あんの、くそじじい、人をからかいやがって!」
どうやら、手作りのラベルだったらしい。
「『逢瀬』と『初恋』のラベルでどうして怒るんですか」
本当に有りそうな日本酒で、面白いジョークじゃないのかとそう尋ねたら、岳理は呆れた様子で溜め息を吐き出した。
「お前、本っ当に苛々する」
「えっ」
みかどが驚いていると、2人は岳理の肩を叩いた。
「みかどちゃんは天真爛漫、純真無垢なの。焦っても無駄だよ」
打ち合わせもなく、そんな言葉がハモる双子の方が驚きだ。
「ま、飲んで忘れましょーや」
ドラガンが日本酒を奪い、手の甲でカツンと叩いた。そして突如昼間から、宴会が行われていく。泣き上戸のリヒトに、甘えん坊のトールに、様々な方言を喋るドラガン。
「皆さん、カフェのバイトは!」
泣くリヒトを慰めつつ、甘えるトさんを岳理さんに押し付けつつ、ドラガンの舞『敦盛』から、本能寺の変ごっこ()が始まり、気づけば空はどっぷり真っ暗になっていた。酔っ払った三人を、転がすように石垣の階段を下りさせ、なんとか車に押し込み、その頃には、三人はぐっすり夢の中だった。
「あのお酒、一口も飲まなくて良かったんですか」
岳理への差し入れだったのに。
「お前、それ以上喋るな」
苛々した岳理が車を急発進させました。後ろで三人がぶつかり合う音がしましたが、起きない。
岳理は暫く黙っていたが、やがて重い口を開いた。
「俺は、鳴海やみかどが傷つく要因が少しでも緩和されるだけでもいい」
信号で止まり、少しの静寂が訪れた。後ろからの鼾以外。
「楠木教授も敵だと判断できれば、それだけで収穫だ」
最初は、店長だけの為だったのに、今はみかどの名前も出してくれた。
「だから、連絡しろよ」
岳理からは、お酒を我慢していた分、強い煙草の匂いがした。苦くて、好きになれない匂いなのに、甘くみかどを締めつける。
「……はい」
時間が早く流れて欲しいと、みかどは頷いた。



