カフェ『アルジャーノン』の、お兄さん☆




「あれだよねー。岳リンって、形から入るよねー」
葉瀬川が、面倒臭そうに尚且つ適当に床を拭いてくれている。がトイレにかけていたタオルだ。
「鳴海んやみかど女史を監視する時は、探偵みたいな汚いコート来たり、法事には、馬鹿みたいに黒スーツで正装したり、花壇作りにはわざわざ繋ぎ着たり、君、コスプレが好きなのかい」
吹き終わったタオルを、洗面所で洗ってくれながら呑気にそう言うが、二人ともその場から動けなかった。

「岳リンは、気づいて欲しくて、こっちを見て欲しくて暴れる子ども。みかど女史は、勝手に諦めて、勝手に爆発して自滅する子ども」
 そう言って、残っていたおにぎりに手を伸ばす。
「そんなお子様達には、鳴海んはどうもできないし、彼の気持ちには到達できないよー。もっと、彼の視点に立ちなさい」
 さすが、大学教授。いつもの面倒臭そうな語尾を伸ばした口調なのに、優しく落ち着かせてくれるトーン。ゆっくり心を落ち着かせてくれる。

「おじさんはいいよな」
 岳理はお茶で濡れた髪を掻き上げて、皮肉を込めて言う。
「漫然と生きて来て、俺みたいなガキには、適わないよ。だがあんたが、漫画ばっか見てる間に、孔礼寺は、あんたじゃ管理できないぐらいシステム化したから」
 葉瀬川の顔ギリギリまで近づいて意趣返しのように笑った。
「今は、鳴海んの話じゃなかったの ――別に孔礼寺なんてどうでも良いけどさぁ……」
 しっしっと岳理を追い払って、みかどを見た。
「面倒な事と、楠木先輩には関わりたくなかったけど、もうしょうがないね。楠木先輩の海外出張先、心当たりあるよ」
「えぇ!」
 葉瀬川は隣に座ると、更におにぎりに手を伸ばす。


「楠木先輩、製薬会社の研究室に居るんでしょその製薬会社、アメリカのある製薬会社と最近提携結んだじゃん。連絡、取ろうと思ったら取れるよ」
「楠木教授に用事があるのは、俺」
 岳理も座り込み、最後のおにぎりを掴んだ。2人はみかどがおにぎりを1つも食べていない事は知らないんだろうな。
「岳リンは初めて私に反抗したから、どーしようかなー」
「父に連絡して下さい」
「いいよ」

 拍子抜けする程に、間も開けずあっさり葉瀬川は言った。
「君が頼むならいいよ」

 ふふーんと、岳理を挑発するように笑うと、葉瀬川はのんびりと応えた。

「私は何億回も言うけど、寺の跡取りには、ならないよ」
ちょっとだけ、弾んだ声で尚も続けて言った。
「口下手な岳リンの本音も聞けたし、首突っ込んで良かった良かった」
「っち……」
 その横では、岳理が面白くなさそうに舌打ちをしていました。岳理は葉瀬川のニヤニヤ顔から顔を背けると、窓辺のアルジャーノンを見た。
「これ金鯱だろ」
 立ち上がり、窓辺のアルジャーノンの鉢を持ち上げた。
「岳理さん、サボテンに詳しいんですか」
「俺ん家の温室にある……」
「あー、あのお化けサボテン このサボテン、あれぐらいになるのへー」
 葉瀬川も立ち上がり見ようとしたら、岳理がはらりと離れて背中に隠した。意外と子どもっぽい仕返しだ。

「アルジャーノンを育ててるんですね。岳理さんの金鯱さんはどれぐらい大きいのですか」
 少し岳理は上を見て考えてから、両手を広げた。
「これぐらい」

 やや疑問系だが、その長さを見て驚いた。
「さ、三十センチ以上はあるのですか!」
「多分」
 興奮して近づいて行くと、岳理もじりじりと後ろへ下がっていく。と、言うことは……。
「も、もしや花とかも……」
「咲いてるよー」
「凄いです! 羨ましいです! 未来のアルジャーノンですねっ! あの、写メとかありませんか!」

 とうとう壁まで追いやり、逃げ場を無くした岳理が舌打ちをする。
「ないよ。んなもん」
「見たいです! お願いします!」
 凄く露骨に嫌そうな顔をするがみかどもまけない。
「面倒だから、見に来いよ」
「はい!」
 やったー!っと、万歳のポーズで固まるみかど。今、どういう流れになったのか分からず固まっていると、葉瀬川が顎をさすりながら、何度も頷いた。
「次は自宅デートかぁ。みかど女史は積極的だなぁ」
「へ え」
「そっか。そっか。岳リンの為ならば、嫌いな父親の連絡もとってあげるのかぁ」
 葉瀬川は、どんどん1人で納得し、心なしか全てを包み込んでくれそうな仏のような眼差しだ。みかどがあわあわしている横で、岳理無表情に首を傾げた。
「明日迎えに行けばいいか」

 岳理は、葉瀬川の言葉に全然動じていない。ここでみかどだけ慌てているのが逆に恥ずかしい。
「フ・ラ・グ! フ・ラ・グ!」
 葉瀬川のチャチャにも負けず、何とか返事をする。
「が、――岳理さんの都合の良い日でお願いします」
 みかどにはそれを言うのがやっとだった。