首を傾げると、ドラガンは苦笑した。
「知識が無いのは、時に残酷だな」
そう言って、前を見て歩き出した。
「ピーマンの花言葉は『哀れみ、同情』じゃ。同情で、鳴海殿に構うのは滑稽、滑稽」
「なっ同情なんてしてません!」
「記憶も無く、姉も忘れ、あんな土の山で倒れる、『可哀想』な人、だと思わなんだ」
「思ってなんていません!」
叫ぶと、岳理が肩を叩いた。
「放っとけ。悪気はなさそうだ」
ドラガンの背中をつまらなそうに見る岳理。けれど、両拳は、力いっぱい握りしめている。天気は快晴。お庭は、草一つなく綺麗。壁だってピカピカで苔なんて生えていない。もう、お化け屋敷なんて言われないような綺麗な中で。
(目的は、何だっけ……)
一瞬で分からなくなった。こんなに庭は綺麗なのに心の中は、つまらない雑草でいっぱいみたいだ。
「此処は、皆の為に綺麗にしたのよ。同情やら哀れみは関係ないわ」
千景が、肥料と土を混ぜながら言う。
「本当に哀れなのは、鳴海さんじゃ、ないでしょ」
「うん」
嫌な気持ちを吹き飛ばして、花壇作りに専念した。
午後は、マンションのせいで日陰になりやすいから心配だけれど、けれど、日が当たる時間も確かにあるんだ。皆は、ちゃんと気づいている。
すると、急に千景が立ち上がった。
「やっば! 私、テニス同好会に行かなくちゃ夜はラーメン同好会だから、遅くなるの」
「いってらっしゃい。色々ありがとう」
「みかどーっ。最後まで付き合えなくてごめんね。あんたは馬のごとく働きなさいよ」
岳理に吠えながら千景は風のような速さで出かけて行った。2人きりになり、多少気まずいながらも、無言で作業した。
「あの、お昼作ったので休憩して下さい」
日が暮れ、遠くでカラスの鳴き声が聞こえるような静寂の中、黙々と花壇に土を入れてくれていた。汗が滴り落ちる音さえ聞こえてきそうな静さを掻き消すように言った。
岳理はわざとらしく音を立てて階段を上がる。そして、202号室の前で、立ち止まる。
「岳理さんっ!」
小声で制し引きずるように部屋に押し込める。
「積極的だな」
「はい」
「男を部屋に入れるの」
意地悪そうに岳理が笑うのが、とても憎らしい。こんな、子供っぽい笑い方もできるのか。いつも、無言か舌打ちしかしないのに。
「昨日の残りですが……」
おにぎりと急いで作った玉子焼きとウインナーを出すと、口の端を上げてまた、笑った。
「子供っぽいメニューだな」
「……またそんな、憎まれ口ばかり。海苔はあげませんからね!」
プイッとそっぽを向くと、声を殺して笑っているのが分かった。
「あのさ」
「何ですか!」
せっかくタコにしたウインナーを馬鹿にされるのかと思って、睨みつけると、岳理の目は真剣だった。
「鳴海、食べ物の話になると饒舌になるじゃん」
指のご飯粒を口で舐めとりながら、黙々と言う。
「けど、なんか饒舌になる内容が、貧乏臭いんだよな」
「え……」



