『ねぇねぇ、管理人のおばちゃん』
『何かしら、坊や』
『白ご飯には、ふりかけが一番美味しいよね』
『まぁね』
『海苔巻きも、美味しいよね』
『ええ』『あーあ。毎日白ご飯食べれたらいいなぁ』
『……え』
『白ご飯って学校でしか食べたことないんだー』
閉じ込めた監禁日に見る幼き日の夢。
「駄目。おばあちゃんの携帯、繋がらないわ」
千景が、クッションを壁に投げつけながら、悔しそうに言った。
「多分、会社には定期連絡してるらしいから、伝言頼んでみる。私に連絡するように」
そう言って、会社へ電話し始めた。
「……所でさぁ何で、本当にその男来てるのよ」
千景がまだ警戒心を露わにしながら、岳理を見た。
今日は土曜日。店長が部屋から絶対に出ないからと、岳理が来てくれた。頭にタオルを巻いて、灰色のつなぎを着ている。まるで、大工さんみたいな本格的な格好なのに、鋭い目つきでちょっと不良さんみたいだ。
「ち、千景ちゃん」
不器用で言葉足らずで、ちょっと言葉にトゲトゲがあるから、岳理との会話は要注意だ。
「あの! サフィニアとビオラを植えようと思っています!」
「ああ」
「あっちの外からも見える所には、ピーマン。取れたらすぐに向日葵に植えかえる予定です。で、カフェの看板の下には、ビオラとサフィニアを植えたいのです」
「パンジーと朝顔みたい」
千景ちゃんが種を見ながら首を傾げる。確かにビオラはパンジーの、サフィニアは朝顔の一種だ。
「あっそ。じゃ、あっちで土と肥料混ぜといて」
指差す方向には、ブルーシート。その上で、土と肥料を混ぜるらしい。
「なんか、あのへっぽこ探偵、詳しくない」
「っち。聞こえてるぞ。昔、寺でも色んな花育ててたんだよ」
失礼だがSPみたいな風格の岳理と、お花はちょっと似合わない。
「椿梅!」
「桜! 牡丹!」
「まーた、五月蝿いのが来たわ」
ガンガンと音を立てて階段を降りるのは、甚平姿のドラガン。
「日本語の美しい所はな、花の枯れる表現なのじゃ。桜は『散る』、梅は『こぼれる』、『椿は落ちる』、『牡丹は崩れる』。どうじゃ 日本語に痺れるだろ この4種類を、庭に埋めて、枯れる瞬間を見ようじゃないか!」
ドラガンの目が生き生きとし始めたが、千景と岳理は引いていた。
「お前、早く仕事行けよ」
適当にあしらい、花壇の設置に取り掛かってくれたが、ドラガンは尚も引き下がって、みかどを見た。だが彼女も慣れ親しんだ日本語に感動なんてしない。
「――ピーマンはどうして植えるのじゃ」



