おいおいと、セクシーなウエイトレスは男らしく泣き出す。皇汰がみかどの現在の状況を大袈裟に説明すると、泣き崩れ化粧崩れも気にすることなく豪快にティッシュで鼻を噛んだ。隣で両手で真っ赤な顔を隠しながら話を聞いている店長も頷く。
「うう。紹介が遅れたけど、私は岸(きし)六田(むた)千景(ちかげ)。このカフェと上の部屋の管理人をしている祖母の代理で空室に住んでいるの。今は此処から大学に通っているわ」
千景は恐ろしく実った胸と妖艶な色気を持っているがまだ18歳。地味で色気どころか胸さえないみかどは自分と千景を見比べ絶望した。
「それでこの被り物マニアで照れ屋でうっかり者が、店長の釘本鳴海さん。このカフェ『アルジャーノン』の店長」
「何でそんな耳つけてんの」
皇汰が空気も読まずにそう言うと、両手の隙間から片目だけ覗かせて言う。
「落ち着くんです。このカフェは本当にキラキラした人が多くて何かに擬態してないと落ち着かないと言いますか……」
「いや、擬態できてないから」
サクサクのクッキーを一口で食べながら皇汰の目は冷ややがだ。
「で、私が貴方の姉になればいいのね、みかどちゃん。お姉さまって呼んでいいからね」
「ち、違います。そんな意味じゃないみたいなんです」
当のみかどでさえ、まだ状況が飲み込めていなかった。が、皇汰は珈琲に息を吹きかけ冷ましながらゆっくり改めてまた言った。
「姉さんには『兄』がいるらしいんだ。このカフェのどこかに血の繋がった唯一の兄が」
「嘘っ」



