「嫌な、事件……」
トールは目だけで微笑んだ。
「でも確かに、幽霊屋敷みたいに草が茫々ですね」
石垣の壁も、蔓や苔だらけで凄い事になってる。
「アパートの中は綺麗だけど、外がねぇ……」
「前は、お祖母さんが手入れしてたから、花とか植えて綺麗だったのですが……」
「実は私、高校では園芸委員長をしていたのですよ。最近はアルジャーノンの為に、園芸をかじっているのです。もしやこれは、お世話になっている皆さんに、ちょっとは恩返しできるかもしれません」
みかどはおさげを弾かせながら笑う。
「金土日、お庭を綺麗にします! 季節の花も植えたら、お化け屋敷じゃなくなりますよね」
「女の子が草むしりなんてっ!草負けしたり日焼けしたり汚れたり!そんな事させるぐらいなら、俺たちがやるよ」
「はい、決まり。アルジャーノンの男共は金曜日草むしりをしまーす。これ、決まりましたー」
「良いですね。僕と、葉瀬川さんも確か講義入ってないですよ」
「よしっ決定だね。『どきどきっ男だらけの草むしり大会』決行! 皆に連絡するよー」
「えっ でも私も」
「みかどちゃんと千景ちゃんは、お花の種を買いに行ってもらおうかな」
そう言って、トールは、携帯1つでテキパキと指示し、まとめてくれた。
「……鳴海さんには酷じゃないといいんだけど」
千景が呟いた言葉は、杞憂に終わることを祈り誰の耳にも届かなかった。



