「あ、カフェ!そう言えばカフェは!」
「えっ」
 慌てて立ち上がっ店長は、顔を真っ青にする。
「あの、お兄さん」
「はい」
「日曜日に会った人、今はお兄さんに会えないのかもしれないけれど……。本当にお兄さんを心配してて、今でも『親友』だって言ってました

 離れてしまっても、思い出は消えない。
「……そうですか、本当に、ありがとう。みかどちゃん」
 店長が、優しく髪を撫でて、みかどはその気持ち良さに、ゆっくり目を閉じた。


「みかどー! 大丈夫ー!」
「撫子ー! 倒れておらぬかー!」
「金曜のバイト休んじゃうのー」
「みかどちゃーん! 冷えピタ買ってきたよ!」
「みかどちゃーん! 俺は病院まで送るベンツ借りて来たよー」
 ポカンとする二人の前に皆がノックもせずに大集合した。
「あっ……」
 5人は、店長が髪を撫でているのを見て、ソッとドアを閉めた。

「ま、待ってください、皆さん」
 すぐに店長も真っ赤になって飛び出して行きました。
「うわー、セクハラ鳴海が出たぞー」
「逃げろ逃げろ、頭撫でられるぞー」
「きゃーきゃー」
「お主、ちゃんと順番を守るのだぞ!」
「鳴海ん、逢瀬が済んだら、紙鑢のバイト代取りに来てねー」
「違うんです!」

 外は、ドタバタ騒がしく、賑やかで楽しそうだ。けれどみかどは、撫でられた髪を、いつまでも触ってた。その度に痛む胸の病。病名は知らない、だがとっくに気づいているの。

「アルジャーノン、……私」
 そっとアルジャーノンを持ち上げて、見つめ合う。
「もしかして、……私」

『花が咲かないサボテンなんて、要らなーい』
 首を振って否定した。『もしかして』程度ならば、考えたら失礼だ。魅力なんてない自分がそんな事を思うなんて、おこがましいと。

「みかどー、本当に大丈夫ー」
 やはりノックもせずにいきなり千景は入って来た。
「うん。お兄さんが髪を結んでくれて、心臓が軽くなったから」
「へーえ」
 そう言って、ほくそ笑む千景は妖艶すぎて怖い。
「鳴海さーん! 紙鑢のバイト代、いくらだったぁー」
 外へ出ると、店長以外はもう部屋に戻っていた。店長も葉瀬川さんの部屋から戻る途中だったらしく、階段の真ん中で止まった。
「教えませんよ」
 そう言うとにっこり笑う。
「サボテンと小動物が居る公園を知ってるので、今度このバイト代で行きましょうね」
「サボテンですか! それは、是非ともっ」
 そう言うと、千景が大胆に胸元の服をパタパタとし始めた。
「熱い熱い。問題無さそうだしバイトに戻るぞー」
 千景ちゃんカフェへ降りるのを確認してから、みかども部屋へ戻った。悩んでたけど、少しだけ、距離は短くなった。距離は近づいたら、心って温かくなる。だから人は、誰かを好きになるんだろう。自分には縁の無い話だと言い聞かせながら。

「お兄さんには定宗さん、私にはアルジャーノン」
 今は、それで幸せなのだ。きっと、幸せ。