黙って頷く。
「定宗さんは、僕の親代わりなんですよ」
それは、前に千景が言っていた。
「僕が記憶喪失になっちゃって、情けないから心配だったんでしょうね。せっかくここら辺りのボスだったのに、引退してくれてまで、そばに居てくれてます」
アルジャーノンが見守る中で、カフェを放りだし正面で向かい合いながら、髪の毛を結んで貰う。
髪をゆっくり2つに分けて、ぎこちなくですが、結んでくれてます。
「愛しあってますね、定宗さんと店長って」
未だに定宗さんに話しかけると、チラッと横目で見てくるだけなのでみかどは拗ねてみせる。「僕は、みかどちゃんも好きですよ。入居してから、どんどん可愛くなっていってると思います。接客も緊張はしてるけど、慣れてきてますし」
「それは、お兄さんのおかげです」
緊張してたりオーダーの確認の時にさり気なく、近くに立ってくれたり、目線をくれるから。分からない時は、スッと隣に来て見本を見せてくれるから質問ばかりでも、嫌な顔1つせずに丁寧にしてくれるから。
「私は、今まで小さい世界で、勉強だけして生きてきたから、お兄さんや千景ちゃんの優しさのおかげで、毎日が新しく、そして楽しいんです」
真っ暗な夜に、流れ星が降るように。目で追えなかった流れ星が、いっぱいいっぱい、次から次へと落ちてきて、真っ暗だった夜が明るくなった。
「お兄さんの笑顔は、とてもほっこりします。温かい、……です」
「何か、照れますね」
そう言って、上手に二つに結んでくれた。
「これしかできないですが」
両手で2つに結んだ髪を握り締めながら、泣きそうになってしまいました。
「お兄さんに結んでもらったから、もう二度と外したくないですっ」
「毎日、結ぶのを僕の当番にしましょうか。グルーミングは絆が深まる大切な行為ですしね」