「…………」
 パタンそのまま店長の顔を見つつドアを閉めて、テーブルのアルジャーノンを持ち、窓辺に置いて、またアルジャーノンをテーブルに戻して、電気を消して、電気をつけ直した。その行動に意味は無く動揺しているのが伺えた。
「みかどちゃん 入りますよ」

ガチャリとドアノブが回され、店長と再び向き合ってしまった。
「具合、悪かったのですか 千景さんに送ったメール、僕にも送信されたんですよ」
 携帯画面を見ると登録している全員に、一斉送信してしまっている。
「熱は……」

 額に手を伸ばされそうになりつい、ビクッと震え、目を瞑ってしまった。
「あっすいません」
 慌てて手を引っ込めて腕を離したが、顔を見れずにみかどは横を向いてしまった。
「大丈夫ですから、帰って下さい」
 今は顔を見ると、心臓が潰れるように重く苦しい。そう言ったら店長はその場で、両手を下ろし無言になった。

「また、僕には『関係ない』のですか」
 そう、両手を震わして言ったのだ。
「僕はただのお隣さんだと思ってますかだから、相談もしてくれないんですか」
 寂しそうにそう言われ、慌てて否定しようとしたが、どう言っていいか分からない。ただ、違うのは確かなのに。

「千景さんと仲良く朝ごはんを食べるみかどちゃんを見て、とても寂しくなりました。僕には、あんな風に心から気を許してくれてないなって。本当は日曜日の事だって気になってたけど、どう聞いていいか分からなくて……。そうしたら、どんな表情で話していいか分からなくて」
「あ、の、違う、です」
 違う、けど気持ちは同じ。お互い、距離を感じて気持ち悪かっただけ。

「け、結局、日曜日は何も良い情報は無く、て、……お兄さんを喜ばせ、てあげれなく、て。だ、から、言えなく、て……」

涙と嗚咽が邪魔をする。店長ちゃんと見てくれているのに。寂しげな背中を見てるだけだったのが、今はしっかり見つめあえているのに。

「定宗さんと絆を感じたけど、私はただのお隣さんだから、寂しく……てううっ……お、兄さんがよそよそし、くて悲しかった、です」

 ボロボロ流れ落ちる涙を拭いながら、どんどん心臓が軽くなっていくのが感じている。ああ、心臓が、涙の重さで苦しかったんだ。溢れた涙は、苦しかった重みをゆっくり流してくれている。
 子どもみたいに泣き出すみかどを、店長はずっと見つめてくれた。目を逸らされないって、とても嬉しいのだと気づく。

「定宗さんが羨ましかったんですか」
 クスッと優しく笑う店長に、みかどは真っ赤になりながら頷いた。素直な反応に店長の顔がとろけそうに甘く崩れた。
「髪の毛、触って良いですか」