「携帯、出なくて良かったのか」
二人は、沈みかけた夕日を背に、只今観覧車に乗りこんでいた。
「……やはり、正々堂々とします。その、」
閉所恐怖症で高所恐怖症な岳理は、うずくまるように、座っているし危険は感じない。
「岳理さん、この前は、無口で無愛想で怖い人だったけど、今日は、自分は苦手なのに私に付き合って色々廻ってくれた、から疑わず、正々堂々としていたいんです。これ、先日の植物図鑑の代金です」
会えたら何とかして返そうと思ってた、お金。封筒に入れて渡すが、やんわりと押し戻された。
「……要らない。詫びのつもりだったから。俺、怖がらせたりビビらせたり、あんたにいっぱい迷惑かけたから、詫びを受け入れて欲しい」
外を見た。サングラスだから、高くても平気なのだろうか。遊園地の中はライトアップされ、色とりどりで綺麗だし、駅まで続く道も、少しずつ電灯が灯り始めていた。岳理は、不器用な人なのだろう。不器用で、人と関わるのが上手く無くて、悪気がなく嫌な事をしてしまうのかも。少し、自分と重なって胸が痛くなっていくみかど。そう思っていたら、いきなり振り返った。そして、ゆっくり一文字一文字区切る様に言った。
「俺はあの日、あんたを見に行ったんだ」
「えっ」
「楠木教授に連絡取りたいから、あんたに頼みたいのだが」
「待って下さい! なぜ私の監視なんか、を……」



