「うるさい」
風が気持ち良いなとか、下りはスリルがあって楽しかったな、と思う程度だったが、岳理は降りた瞬間、顔色を悪くしてふらふらしながらベンチに座り込んだのだ。
「お水、買ってきますね」
そう告げ近くの自動販売機へ走る。カバンが振動しているのに気づき、慌てて携帯を開くと、皇汰からだ。
『今、どこ』
そう書かれていて、ハッとした。カップルスペースに行かなければいけなかった事を。カップルの雰囲気を作り上げ、おだてておだてて、良い気分にさせた後に、店長の事を聞かなきゃいけないのに。
『今から向かう』
お水を買って、岳理の所へ急いで戻った。まだ岳理はベンチに座り、ハンカチで顔を隠しつつ、天を仰いでいた。
「あの、これ……」
「――悪いな」
水を飲みやっと顔からハンカチをとった。
「次、どこ行く」
そう、真っ青な顔をして言った。
(……どうしよう)
「な、何なら乗れますか」
パンフレットを見ながら尋ねるが、ぐったり真っ青な岳理は返事が無かった。カップルスペースに自然な流れで来たが、ミラーハウス、お化け屋敷、3D短編映画、全て見れそうに無い。甘い雰囲気どころか、俄然良い雰囲気なんてなれていない。
「俺は、良いから。行きたい所、全部行けば良いだろう……」
「岳理さんも楽しまなきゃ、デートじゃありません。突き放さないで下さい」
そもそも、デートする間柄ではないものの、どんどん顔色が悪くなる岳では、皇汰の作戦なんて実行できない。
「……携帯」
カバンの中のバイブの振動を岳理さんは指摘するから、みかどは言う。
「出なかったら、見張ってる弟が来ますよ」
そう言うと、舌打ちをした。



