『皇汰は、昔から利発て聡明で、本当に素晴らしい。代々、楠木家は学者ばかりだが、その血を受け継いでいるな』

 皇汰は、父親に頭を撫でられて、得意気に笑ってる。有名中学を首席で入学したあの日。

『なのに、お前にはがっかりさせられる事ばかりだった』
 みかどを、蔑んだ目で父は見た。

『聖マリアを補欠入学なんて、恥ずかしいと思いなさい』
 皇汰が主席で入学した今、みかどの価値なんて無い様なものだった。
『父さんも、恥ずかしいね』

皇汰が言う。


『頑張ってる姉ちゃんを否定するなんて、父さん恥ずかしい。俺、道徳は学校でしか習えない。家じゃ習えない。学べても』

 そう言って、みかどの服の袖を引っ張った。記憶の中の酷い言葉の中に、必ず皇汰の温かい言葉と励ましの言葉があった。




「やっぱりあの岳理って人、金持ちの坊やなんだね」

 そんな皇汰が今調べていたのは『孔礼寺』だった。室町時代から続くと言われている云々が書かれたページをどんどんスライドしていく。勿論、全て読み理解してからだから驚異のスピードだ。
「そう本家の坊ちゃまなのよねぇ。ただ、亡くなられたお爺様が、葉瀬川さんを跡取りにって遺言したらしくてさぁ。葉瀬川さんは面倒だからサッサとマンション買って逃亡。でも坊ちゃまは跡取りが嫌で探偵とかしてるのよねぇ」

 葉瀬川と岳理が親戚だと聞いて納得。それであの二人は待ち合わせしていたのか。
 みかどは、大きなお寺のホームページを見ながら自分の様に胸を痛める。
 自分がこのまま跡取りの予定だったのに、葉瀬を推されて、――自分の存在価値に、意味が無いような気がしたり葉瀬川が嫌がったから、仕方なく本来のまま、自分が継ぐ事に抵抗があるのかもと。
「姉ちゃん、同情なんかしたら隙ができるぞ」