「大学一年の時に、フラッシュバックが起こったんで、一年休学して、岳理さんとは関わらないようにしたみたい」

 そう言って溜め息を吐いた。
「私が教えられるのは此処までかな。これ以上は、教えられないし、興味本位ならもう忘れて欲しい」
 そう言った後、切なく笑った。同時に、胸が苦しくなった。勿論、興味本位なんかじゃないけど、みかどは自分なんかが踏み込んだら駄目な気がした。すると、空気を読んだ千景が急に意地悪な笑みを浮かべた。

「みかど、最近頑張ってるよね。人と関わろうって勇気を出して、私を探して尋ねてくれたんでしょ 視野が広がるのは、怖いけど、嬉しい出会いもあるもんなんだよ」
「……千景さん」
「そりゃあ、アルジャーノンを訪ねて来た時、死にそうな覇気のない顔で心配したけどさ。でも、頑張ってるよ。私、『私なんか~』とか『羨ましい~』とか言って努力しない、うじうじ系は嫌いなんだけどねぇ。純粋であたふたしてるみかどは、可愛いって思ってるよ」
 優しい。綺麗で、凛とし強う、気配りもできるし、千景は本当に良い人だと思う。憧れる存在だ。
「決めた、私、決めたよ。千景さん!」
 両手を握り締め、堅く決心した。

「岳リンさんと、デートする!」

 綺麗な千景の顔が、間抜けな顔になった。それでも、みかどの決心は変わらない。
「ちょっとね、脅されてたんだけど、逃げないって決めた。ありがとう、千景さん!千景さんのおかげで勇気出たよ」
「いやいやいやいや、待って、待って! 話が分からないけど、デートを脅迫されてたの」
 みかどが頷くと、瞬時にデコピンが帰ってきた。

 おでこをすりすりするが、千景は鬼の形相で睨んでいる。
「ばっかー! そーゆーヤツこそ話してよー! 岳理さんとかまじ得体の知れない要注意人物だよ」
「だ、だから、会ってみようかなって。お兄さんに、近づくのに深い訳があるなら聞いてみたいし、聞きたい事もあるし」
「ねぇ、」
 いつしか話に夢中になっていたのか、雨が止んでいるのに二人は気づいていなかった。
「それって、みかどの『お父さん』に関係あるの」
 千景は岳リンの言葉を覚えてた。