タブーだ。絶対に聞いてはいけない、駄目だって、止めろって、全身が言ってるのに、みかどは虚ろな目で冷や汗をかきながら、言葉を漏らしていた。

「ど、して、出られない……んです、か……」
 違和感を、壊したかっただけだった。千景や葉瀬川や、岳リンが匂わす違和感を。店長に含む謎を。だが。

「それが、僕の戒めだから」
店長は笑った。違和感なく、笑ったのだ。店長にとって、土日部屋から出ないのは、物音1つ立てないのは、全く違和感のない、日常。「私、……大丈夫です。弟も、千景ちゃんもいるし」
 みかども、笑った。違和感を感じさせないように、笑った。すると、店長は安心したのか肩の力を抜くのが分かった。

「お休みなさい。みかどちゃん」

手を振る店長に、手を振り返す。だがみかどの手は、情けなくも微かに震えていた。やや欠けた月は、満月とは言えず不完全なのに、空で輝いていた。優しく照らす月が、何故か今日は寒く、冷たく感じる。店長の笑顔が、初めて怖いと思ったんだ。何でだろう。あんなにも優しい人なのに。みかどには理由が分からない。ただ冷たい身体で部屋に入って、机の上の携帯を開いた。


『日曜日、駅前に十四時。必ず来るように。来なかったら迎えに行く。実家の場所も分かっている』


内容を見て、みかどは安心する。店長には、全く関係のない内容だったから。携帯を閉じ、店が閉店中は持って帰って自分の窓辺に置くアルジャーノンを、今日だけは枕元に引き寄せて、目を閉じた。眠れないと分かっていても。
『長き夜の遠の眠りの皆目覚め波乗り船の音の良きかな』