心なしか、外人は色白の肌なのに、頬が桃色になっている。もしかして、お酒に酔っているのだろうかと、みかどは鼻で小さくクンクンする。若干お酒臭い……。
「大和撫子発見! なんばこげなトコさ、居たんだべさ!」
 方言が色々混ざってると思ったら、目が座りだした。やはり完全に酔っているようだ。
「黒髪に、控えめな物腰! まさしく日本のことわざの『立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花』じゃ!」
 そして、下駄の音を響かせながらキッチンの千景を見る。
「そんな胸ば強調して、花魁は恐ろしかぁ~。お千のせいで、大和撫子は絶滅したと、諦めとったとばい」
「あっら~お酒に酔ってるからって本音を出して良いわけじゃないのよぉ」
 笑顔の千景が突き出したのは、――納豆。

「ひっそれは……」
「知ってたぁ ドラガンさん、今はカチッと割るだけで、簡単にタレがかかるのよ」
「臭い臭い臭い臭い臭いくさーい! 日本の文化は美しいのに、何で腐ったもんば食べるね」
「あら。あなたの国でも腐ったチーズ食べるでしょ」
「寄るな、来るな、かき混ぜるな、近づけるなぁ~!」
 半泣きの外国人さんは、腰を抜かしたのか、座り込んだまま、後ろへじりじりと下がるしかできない。
「あらん 私がかき混ぜた物が食べれないの」
「『食べられないの』だ! 『ら』抜き言葉を使うな、非国民め!」
 文法を注意された千景は、笑顔で納豆の剥がした蓋を、顔に投げつけた。
「ドラガンさん!」
 お茶会をしていた人達が、倒れた外人の回りに集まるのを、千景は冷たい目で見下ろしていた。
 結局、俳句を読む会のお茶会は強勢終了し、みかどとその外人は一緒に夕食を食べることになった。
「拙者、ドラガン・フリードマン。生粋のイタリア人でござりまする。好きな漢字は『六波羅探題』。好きなお寺は竜安寺。普段は教会で神父を、月2回インターナショナル・スクールに日本文化を教えておる二十九歳、華の独身じゃ」

 酔いが覚めたドラガンが鼻を洗濯バサミで押さえながら礼儀正しく自己紹介をしてくれた。「もう酔うまで飲んだら駄目ですよ」