願はくは花の下にて春死なむその如月の望月のころ
ながきよのとをのねぶりのみなめざめなみのりぶねのおとのよきかな


アルジャーノンへの帰路で千景に遭遇した二人は納豆ご飯、卵かけご飯にすると言うと怒鳴られた。店長は平謝りしつつカフェへ逃げ込み、みかどは着替えて手伝いに向かった。
カラン……コロン……

 道を歩いている音にしては、良く響く下駄の音だった。
「どうしました」
 階段で立ち止まっていたみかどの後ろに、店長が現れた。店長は和服にたぬきの耳をつけている。
「いえ」
「髪の毛下ろすだけで、女の子は印象変わりますね。制服も普段着も、可愛らしいです」
「えっ」

 ニコニコ言うけど、深い意味はなさそう。薄暗くて良かったとみかどはしみじみと思う。免疫のないせいで多分、今、顔が真っ赤だ。
「水曜日は、和風喫茶になるんです。お茶と俳句を嗜むのでこんな格好です。みかどちゃんも団子屋の娘みたいに可愛い着物がありますよ」
「わわわわ」
「ジーザスクライスト!」
 二人が頬を染めほのぼのと会話している中、下から断末魔のような悲鳴が上がった。二人が慌てて降りて行くと、そこにはミニスカに谷間全開の千景が、二人の為に夕食を作っていた。
 しかも、何故かカフェのキッチンで。それに悲鳴を上げているのは――金髪の外人だった。金髪の長い髪を束ね、肩に流し、色っぽく浴衣を着ている外人さん。碧眼で色白で、ハンサムだ。

(金髪碧眼って、童話の中の王子様みたい)
 思わずみかども声を失うほど見惚れたが、王子は顔を見るみるうちに歪め、真っ青にした。

「儂の働く水曜に、――そんな恐ろしいモノを持ちこむなんて! 花魁は見た目も派手で下品だが、それは許しがたい!」
 外人は、何度も何度も指を胸の前でクロスさせ祈ると、カフェの奥へ逃げて行った。
「何よ。人を見れば花魁花魁馬鹿にしやがって」
 千景は鼻息を荒くしながら、手に持っているモノを見てにたりと笑う。間違いなく、故意だ。納豆をねばねばと掻き混ぜて、卵とネギが入った器に移して行く。