振り返って同意を求めたが、みかどは全力で首を振った。
「ちょっと、交番で話を聞こう。お茶ぐらい出すよ」
「本当ですって! 俺、あいつの名前知ってるし! 世話になった教授の娘なんすよ!」
 慌てる男のと警察官を尻目に、みかどは猛ダッシュで駅前から逃げた。
「おいっ待てって」
「ひああ!」
(……教授の娘)
 駅が豆粒みたいに小さくなってから振り返った。駅前の様子は見えない場所だけど、もしかしてとみかどの脳裏に浮かぶのは、先日見た嘘臭い探偵の紙鑢の人だろうかと。黒いシャツにジーンズで探偵服では無かった上に無精髭、無造作に伸ばされた黒髪、キリッとした眉毛に、二重のぱっちり瞳。硬派な凛々しい感じは確かにそうかもしれない。ソレだったならば、彼は嘘をついていないのに警察のお世話になってしまうことになる。申し訳なくて引き返そうかと思ったが、みかどの手は震えていた。父親を知る人物が自分に話しかけたと言う現実。みかどはその現実が怖くて逃げ出した。後ろ髪を引かれながらも、見えた本屋に逃げ込んだ。
「あれー、君は確か……」
 適当に歩き回っていたら、二階の漫画コーナーから降りてきた人に話しかけられる。
「葉瀬川さんっ」
「ここの本屋がここらじゃ一番大きいから、良いよね」
「そうなんですね。葉瀬川は?」
怠そうに腕時計を見た。
「んー、待ち合わせしてるんだけど、来ないんだよねー。帰ろーかなー」
「帰っちゃうんですか」
「うん。やっぱり帰ろー。君は」
「私は待ち合わせしてるので。あの、携帯貸しましょうか せめて帰る連絡だけでも」
「……番号、知らない」