それはトールやリヒト達との初日を終えた次の日。
 今日は、皇汰が息抜きにみかどを映画に誘ってくれた。だが
『悪ぃ。部活長引く』
 そんなメールが届いてからかれこれ三十分。皇汰が何時に終わるかも分からない。しかも、昨日のお詫びを兼ねて勇気を出して、リヒトさんのお店に顔を出したら、頭からつま先までコーディネートして貰い、三十分が限界で飛び出してしまった。

「おい、あんた」
(本屋でアルジャーノンの育て方でも勉強しようかな)
 たださえ視線や声が怖い中、みかどはぶつぶつ唱えながら歩き出す。
「おい、おいってば」
(でも皇汰の中学に近いから、メールして待ち合わせ場所を)
「楠木みかど!」
 その瞬間、駅前広場で歩いていたほとんどの人が、その声に注目した。
「無視すんなよ」
(え……。この人、誰……)
 無精髭が生えてるが、まだ若い。店長も年齢不詳な部分があるが、この人は直感で怖いと退く。
「あの、どちら様ですか」
疑問に思いおずおずと尋ねると、不機嫌そうに唇を噛乱す。
「っち。俺だよ、孔礼寺岳理だよ」
 ずいっと顔を近づけきたので、一歩下がってじりじり逃げる。だが、名前も知らない。そもそもみかどには男の知り合いは店長とトールたちしかいない。
「だ~か~ら~」
「君、君」
 その男の人は、不意に肩を叩かれた。叩いた相手は、駅前の交番の警察官。注目浴びてしまったおかげで、誰かが呼んでくれたようだ。
「ここ、交番前だよ 恥ずかしくないの。中学生に勧誘したりして」
「ちゅ……」
(四月から大学生なのに!お化粧はしてないけど、洋服は可愛いのに、酷い……)
 呆然としているみかどを、警官は怖がって固まっていると判断したようだ。
「俺、こいつの知り合いなんですけど、な!」