カフェ『アルジャーノン』の、お兄さん☆




店長が庇おうとした時にはもう既にみかどは椅子で頭を打ち、美形二人のフェロモンから解放され緊張の糸も切れ気を失う寸前だった。
「大丈夫ですか すぐにお水お持ちしますから!」
「あ、ありがとうございます」

 眩暈がする中、店長の後姿を見る。今日は蝶の被りモノをする予定だったのか小さな蝶の羽を背負っているのが見える。
 二人が、押し寄せる女の子たち一人一人に丁寧に接しているのを見て、みかどの胸は苦しくなった。



『で』
 眩暈がする頭の中に響く声。
『その服を買えば、お前の成績は上がるんだな』
 耳を塞いでも、その声は記憶の片隅で音を鳴らす。
『お小遣いはこの口座に振り込む。お小遣いの額は統計データに基づいた、高校生の平均額だ』
 そうだ。その声は間違えてない。みかどに冷たく言い放つその声は、間違ってはいない。――統科学的には、きっと。だが、それはみかどを深く傷つけるだけだった。


「みかどちゃん、お水です」
「お、兄さん……」
 みかどを覗き込む店長が、優しく首を傾げる。記憶の片隅から聞こえる凍てつく声とは裏腹に、その声は優しい。渡されたお水は冷たくて美味しくて、みかどの涙線は簡単に崩壊していった。
「許してあげて下さいね。理人さんも透さんも、十二人兄弟の長男で、女の子が兄弟で欲しかった反動で、あんなに女の子に執着してるんですよ」
「そう、そうなんですね」
 それを聞き、やはりあの二人は本当の兄ではないのだと項垂れる。でもあの二人の妹に生まれたら――きっと幸せに違いない。
「カフェそっちのけで忙しそうですもんね」

「そう! 理人さんも透さんも中学卒業後、弟さんたちの為に就職したんですが、理人さんは今のお店の人に援助して貰って、大検取って、専門学校行って就職。透さんも大検取って、夜間働いて、昼は学校。2人とも、一番下の弟が高校卒業するまで仕送りするみたいですよ」

 二人の楽しそうな様子からは、そんなに頑張って苦労してる様子も見えない。だが、――いや、だからか。だから、2人は綺麗なのかもしれない。芸能人みたいに輝いてたのは、2人の努力や優しさや頑張りがにじみ出ていたのだろう。
「すみません。ご迷惑かけてしまって」
 謝ると、店長は優しく笑って首を振った。
「いいえ」