「ああ。103号室を書斎に使っている葉瀬川唯一(ゆいいつ)と申します。千景さんの学校で、国語、主に現代文を教えていますよ」
そう言って、先ほど譲り受けたビニール袋を、みかどの目の前に突き出した。
「これ、月曜に鳴海くんに渡しといて」
「紙鑢を、ですか」
すると、葉瀬川は適当に頷いて、部屋を指差した。
「鍋の君は、部屋にある漫画を2階に持って上がってくれ。バイト代は出すよ」
「はぁ」
「ある絶版になったタイトルの、初版を手に入れたんだが、日焼けが酷くてね」
そう言って案内されたので、促されるまま、103号室の玄関に上がる。103号室は、黒い革のソファーと、小さな丸いテーブル以外、壁は全て本棚で埋め尽くされていた。玄関には、段ボールに入れられた漫画、そして本棚の中身も、全て漫画。小さなテーブルには読みかけの漫画に栞が挟んであった。
「漫画は素晴らしいよ。字と絵だけで、世界が生まれる」
漫画を馬鹿にせず、漫画の世界やテーマを受け止めている。アンニュイな見た目に寄らず、物事を深くと耐える人のようだ。



