「皇汰、皇汰ってば」

「あんな家、帰らなくて良いってば。ってか、あんなの家族じゃねえし。俺も、家族は姉さんしか居ないって思ってるから、あんま落ち込むなよ」

 信号で律義に止まった皇汰は、息を整えてみかどが落ち付くような柔らかい声でそう言うと、頭をくしゃくしゃと撫でる。中学二年生、身長はまだみかどより目線が少し上なだけで170センチ満たないぐらいだろう。それなのに、落ちついた優しい少年だった。

「じゃあ、今からどうすればいいの」
「当てがある。駅の近くにあるCafeなんだけど」
「当てって Cafeに何があるの」

 訳も分からないまま困惑するが、携帯を弄りながら在処を探す皇汰は、みかどの声に反応しない。

気づけば、潮の香りが鼻孔を擽った。潮の香が髪に絡みつく。みかどが通う聖マリア女学院は、最寄りの駅までの帰り道、曲がり角曲がり角に教師が立っていて、寄り道はしたことが無い。学校と家の往復の中、隣の駅に行けば海が近くなるのだと知らなかった。

 駅の近く、レンガ通りの道を歩いて行けば、大きな公園の傍に、小さなCafeを見つけた。大きな対となる銀杏の木がカフェの左右に生えていて、涼しそうな日陰ができている。木でできたアットホームな雰囲気で、外のテラスにも木の屋根があり、黒のテーブルと椅子が二組置かれている。
「ちょっと待って」