その日は、空が曇っているある土曜日だった。土曜日は喫茶店『アルジャーノン』はお休みなのでCLOSEと書かれた看板がドアに下がり、一階はしいんと静まり返っている。が、テラスのテーブルの上には、曇りなのにも関わらず定宗が重たい身体を丸めて眠っている。蝶が飛んできたり枯れ葉が落ちる度に片目が開く定宗は眠っているふりをしているのかもしれない。

あれから、皇汰が少しずつみかどの荷物をあの家から運びだしていたが、千景の祖母でありこの三階建てのテナントビルの管理人でもある岸六田麗子の弁護士が二人の家を訪れた。何の話をしたのか、二人が学校へ言っている間に取引は成立し、みかどは家出では無く一人暮らしとして家から出ていくことを認められた。

「なぁ、表にいる奴、怪しくね」

部活帰りの皇汰が、みかどの部屋に入って来るなりそう言った。ドアのスコープから覗こうとするが、全然分からなかった。
「ほら、見て見て」

 皇汰は堂々とドアを開けて、下を指差した。隣の高級マンションとカフェの間の道に、新聞を読んでいる人が見える。黄土色の帽子を深く被り同じ色のコートを着ているが、ここからでは男か女かさえ分からない。空は太陽が隠れ始めていた。千景は出かけて居らず、店長も土日は定休日で今日は会えていない。出かけてるのか部屋から物音一つせず。そしてみかどはまだ他の部屋の人には挨拶さえできていなかった。

「でも、新聞に夢中になってるだけかもしれないし」