「この子の名前、何にしましょうか」
眼鏡を外され、店長のTシャツで、涙を拭く。ビスケットの良い匂いが鼻を掠めて、みかどの気持ちが少し軽くなるのが分かる。
「お店の名前をお借りしたいです。アルジャーノン。どんどん天才になって行くの。その度に周りの世界が本当は冷たくて寂しい世界でも――この子は負けないように。私がいるから」
「素敵な名前です。きっと喜んでいますよ」
「そうだと嬉しいです」
ホームセンターへ着くと、園芸担当の若い女の従業員が鉢代え知識を持っていたお陰で、小さな鉢に移し代えて貰えた。
「さて帰りましょう。きっと今ごろ千景さんがカンカンですよ」
「それは! 急がなければ。あ、でも――」
みかどはいつの間にか二人の前を歩いていた定宗に追い付き、漸く魚型クッキーを差し出すことができた。
「大変遅くなりましたがどうぞよろしくお願いいたします」
無香料、保存料、着色料無しの、定宗への愛情たっぷりのクッキー。定宗は数回匂って確認してからパクリと食べてくれた。
その時、近くのホームセンターで紙鑢を買いながら二人と一匹を監視する人物がいることをまだ知らない。



