店長はクマの耳を揺らしながら、みかどの前に立ち塞がると定宗を優しく奪う。そして定宗を肩を押し付けて抱き締めると、小さな謎を吐き出す。

「僕には定宗さんしか本当の家族はいません。だからみかどちゃんは僕を『お兄さん』って呼んでくれたら嬉しいな。本当の妹みたいに僕の家族になってくれますか」
 本当の家族に。言いながら、店長の顔は真っ赤だった。
「あ、も、勿論、皇汰くんも弟です。大丈夫ですよ!」
 何が大丈夫なのか分からないが、店長は自分の言った言葉にあたふたしていた。
「お」
 じわりと胸に広がる熱。それはちょっとみかどにとって嬉しい胸の痛みだった。
「お兄さん……」
 本当の家族が家族になれなくても、人は恋に落ちれば他人とでも家族になれる。
「ふふ。お兄さん」
「へへ。みかどちゃん」

 今日出会ったばかりで二人の心には一滴の温かい気持ちが満たしてくれている。
(――でも、でもね、お父さん。)
 優しい店長の横顔を見たら、みかどは益々涙が込み上げて来て、何度も何度も眼鏡を外して涙を拭く。

(私も、努力はしたんだよ。だから、要らないとか言わないで。存在まで、否定しないで。)
あの親子の様に、周りが見えなくなる様な愛情でも欲しいとさえ思うほど、愛が枯渇していた。「みかどちゃん」
 気づくと、店長が寂しげにみかどを見つめていた。傷ついた様な、悲しい笑顔を浮かべて。