男の子が落ちていた木の枝を持ち振り回しながら走ってくる。店長がみかどとサボテンを守り背中を向けた時だ。低重音の、ピアノの鍵盤の一番低い音のような呻き声がする。その呻き声は、夕日を隠しながら滑り台から舞い降りたのだ。


「ふぎゃあ!」
 全身の毛を逆立てながら漬け物石と思っていた大きな物体が店長を守るように立ち塞がった。10キロは越えそうな膨よかな巨大猫。黒と白のぶち模様だが模様さえも巨大すぎて伸びているように見える。
「化け物猫だぁ」
「定宗さんっ」
 男の子と店長が叫ぶのは同時だった。定宗というここ一帯のボスが猫だったなんて。みかどはびっくりして口をあんぐりと開けたが、みかど以外の三人は今まさに修羅場だった。
「化け猫だ」
「威嚇して怖いわ。ママの後ろへ隠れなさい」


定宗とは無関係だった見ず知らずの親子は、クマ耳の店長と殺気だった定宗を見て、お互いを抱きしめ守ろうとしている。

「定宗さん、僕は大丈夫だから落ち着いて下さい」